ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
江角 泰俊
1981年、広島県生まれ。宝塚造形芸術大学短期大学部芸術学科ファッションコース卒業。2008年、セントラル・セント・マーチンズ芸術大学ファッション&テキスタイル科卒業。アレキサンダー・マックイーンなど、コレクションブランドで経験を積む。08年、アクアスキュータムにてニットウエアデザイナーに。帰国後、ファッションデザイナー、アートディレクターとして活動。10年、Yasutoshi Ezumi設立。JFW主催、第3回「SHINMAICreator’s project」選出。13年、第6回「DHLデザイナーアワード」受賞。15年、「DHL exported NT」ファイナリスト。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
小さな頃からサッカーにいそしんでいた江角泰俊氏が、人生のテーマにファッションを選んだのは18歳の時。女性服のスタイリングに関心を持ち、短大のファッションコースへ進学した。ここでさらに服づくりの世界に魅了され、デザインに夢中になっていく。その後、憧れのデザイナー、アレキサンダー・マックイーンについて調べるなかで、セントラル・セント・マーチンズ芸術大学に行き着く。「デザインの本質が何なのか悩んでいて、そこを突き詰めてみたいという好奇心がふくらんだ時でもありました。そして、大好きだったマックイーンの下で修業したいという思いを持って、渡英を決断しました」
セントラル・セント・マーチンズでの学びは、その後の仕事の進め方に大きく影響している。最初に教えられたポートフォリオやスケッチブックの制作もそのひとつ。日本の技術先行型の教育では得られなかった、クリエイションの骨子を固めていく作業の重要性を学んだ。2週に1回のペースでプロジェクト型の課題が出され、プレゼンテーションを行うスタイルの授業はまるで修業のよう。世界中から集まったファッションを志す学生たちの情熱やクオリティの高い作品に刺激を受け、それに負けまいと制作に打ち込んだという。
「プレゼンテーション終了後、すぐに点数や順位が発表されます。ファッションの世界がすさまじい競争社会であること――学生の立場で痛感できました」
セントラル・セント・マーチンズの2年目、アレキサンダー・マックイーンの門を叩いた22歳の江角氏はインターンとして採用され、コレクションの現場を経験する。「彼の下で働けたことは嬉しかったけれど、ショーの前は徹夜の作業が何日も続いた。スピードとクオリティの両方が求められ、任された仕事を完璧にこなすことだけに注力しました」
セントラル・セント・マーチンズ卒業後、アクアスキュータムでニットウエアデザイナーを務めた。その後、パリへ移住するが、1年後、自分のブランドを立ち上げたいと考え帰国。10年、「ヤストシ エズミ」がスタートした。
ブランドコンセプトは「理/LOGIC」。江角氏の実家はお寺だ。物理学者でもある父は、幼い頃から“理(ことわり)”に関する話をよくしてくれた。その教えが、江角氏の服づくりを支える。
「理に叶ったものづくりという考え方がいつも根底にあります。何かを判断する時、例えば時代性、服としての動きやすさ、生産性など、常に理に叶っているかどうかを意識してきました。長く続けていく中でブレないために、いつも立ち返る僕にとっての原点です」
ブランド創設から5年。ファッションのスピード感や流行に流されることなく、ゆっくりと着実に本質を探していきたいと語る江角氏。これからも今と変わらずにものづくりを楽しむ姿勢と“理”を大切にしながら、世界の舞台へと続く階段を、一段一段丁寧に昇っていく。