ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
小野 智海
1997年生まれ。文化服装学院で洋裁の基礎を学んだ後、美術論を学ぶため、東京藝術大学芸術学科に進学。卒業後に渡仏。エコール・ドゥ・ラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール・パリジェンヌでオートクチュールの技術、デザインを学ぶ。「ルフラン・フェラン」、「メゾン マルタン・マルジェラ」で経験を積み、帰国。2009年に自身のブランドを設立。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
高校時代、「KENZO」の技術の斬新なデザインに衝撃を受け、デザイナーの道を志した小野智海氏。文化服装で洋裁の基礎を学んだ後、卒業を待たずに東京藝術大学に進学する。美術や哲学の論理的なアプローチをデザインに取り入れようと考えてのことだ。さらにこの後、近藤れん子氏の東京立体裁断研究所でプロの仕立てを学ぶ。
「ここで面白かったのは、トワルの状態から生地を指でつまみ、脇線やパネルラインをウエストで伸ばしてピンで打っていたこと。それにより、甘いカーブができ、立体感のあるシルエットが生まれます。日本的な"平面からパターンをとらえる方法"とはまったく違い、非常に勉強になりました」
この経験からオートクチュールに興味を持ち、2006年に渡仏。パリのファッションスクールに入学し、ドレス文化の根づく欧州ならではの立体裁断技術や考え方を習得する。在仏中に、マルタン・マルジェラに師事するなどして実務経験を積んだ後、09年に自身のブランドを立ち上げた。
「マルタンは、僕が指示とは違う形に生地を裁断してしまった時、それを生かしてワンピースを作ったんですね。予測できないものから新しいものが生まれる面白さを目の当たりにしました。その経験は、今の自分のものづくりに生きています」
小野氏は、自身のデザインに美術論や哲学、レトリックなどの考え方を取り入れるアプローチを続けている。コレクションライン全体が、現代アートとして捉えられるような表現をしており、そこにはフランスの哲学者メルロ=ポンティや、象徴主義を代表する詩人ステファヌ・マラルメなどの影響があるのだという。
「例えば、バラバラのデザインの椅子を置く時、ひとつの空間の中で椅子のの配置バランスが完璧になる奇跡的な瞬間がある。ものは物理的に存在していますが、意識をどこに置くかによってその見え方は変わります。その空間に存在するものは、周囲との関係性とともにある。僕はファッションも同様に捉えています。」
服のパーツを文節的に捉え、アームホールを襟ぐりとしてみたり、バレンシアガの60年代のドレスを起点にコレクションを展開して記憶に紐づく過去の時間軸を取り入れるなど、挑戦を重ねている。
「一点の服であっても多様な着こなしができますし、ファッションは一つのイメージに収斂していくものではないと考えています。いくつかのキーワードから着想したアイデアを配置していく手法をとることが多い。その一点の服を、そしてコレクション全体を、ひとつの空間として捉えた時、周囲にあるものをどうつくり、全体をどう構築していくのか。僕はそこに興味があるのです」
着る人それぞれが意味を見いだせるよう、様々な表現を取り入れ、常に新たな着こなしがみつかる服づくりを目指す。小野氏の飽くなき挑戦が、ファッションの新境地を切り拓こうとしている。