ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
岩田 翔
東京都生まれ。2008年、杉野服飾大学モードクリエーションコース卒業。卒業後、デザインアシスタントとして経験を積み、11年、大学時代の友人、滝澤裕史とファッションブランド「tiit」を立ち上げる。13年、新人デザイナーファッション大賞プロ部門受賞。14年、株式会社KIDS-COASTERを設立。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
中学・高校時代に裏原宿ブームの全盛期を過ごした岩田翔氏。
私立の進学校に通っていたが、ファッションに興味を持ち、「好きなことで生きていきたい」と考えるように。杉野服飾大学に在学中、意欲的に行動を起こし、様々なファッション人脈を広げていった。
卒業後は、デザインアシスタントとして3年経験を積んだ後に独立。卒業後の経験も、自身のブランド「tiit (ティート)」を滝澤裕史氏と共に立ちあげたのも、すべてそれまでの人とのつながりからだ。
「僕らの世代のヒーローは、アンダーカバーやナンバーナインをはじめとする裏原ブランド。日本のファッション教育では洋服づくりのみに比重を置いている。逆に海外のファッション教育では、過去の自分の経験や価値観からアイデンティティを掘り起こし、デザインに落とし込むスタイルを教えていることが多い。僕は両者どちらも大切であり、ファッションとは服自体に宿るものではなく、人と人とのコミュニケーションから生まれると考えています。その時の感情を大切にしたイメージを纏い、社会と共有するためのもの。自分のエゴやアイデンティティを押し出すだけではなく、時代が必要とする空気そのものや余白をデザインしていくことを大切にしています」
岩田氏にとっては、洋服づくりもイメージづくりも並列であり、トータルで100%。ものづくりにとどまらない"表現"を目指している。
岩田氏がデザインする際、重きを置いていることは3つある。過去を必要としないノスタルジーをファッションに落とし込むこと、感情にフックするものであること、そして、日本人が得意とする感情の機微を細やかに表現することだ。
「モードの世界はやはり、西洋人のほうが強い。そこに日本人としてのレイヤーを重ねることが武器になると思っています。僕らの母国語は日本語ですが、英語に比べて感情表現の起伏は少ないですよね。しかし、二重三重の含みがあり、言葉そのものが豊かにデザインされている。ラグジュアリーやゴージャス、セクシーと違い、単純には表せない色気や謎解きがある。こうした繊細な感覚を大切にし、日本語を使うようにファッションをクリエイションしています」
アイデアの発想は、漂う空気から。色、音、匂いを含む風景を思い浮かべ、形にしていくという。
「テクノロジーが発達し、効率化された現代社会で求められるものは、より人間らしい感覚だと思うんです。僕は、時間の流れと感情こそが、それに当たると考えています。今シーズンは、『夜明け』がテーマ。河川敷に漂う紫色の空気の下、穏やかに流れる時間が呼び起こすノスタルジックな感情を表現しようと思いました」
無秩序に見えてバランスの取れたレイヤードでは、ボタンの掛け違いや、シューズのストラップを外すなどの細部にもこだわり、眠りと目覚めの狭間の感覚を表現。世界で注目される日本映画のような繊細な世界観を醸し出している。
「あえて完璧でない抜け感で、余白をつくり受け手の感性に委ねています。世に必要とされるニーズをつくり、人の心に必要な"今の空気"を表現し続けていきたいですね」