ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
マロッタ忍
神奈川県生まれ。大学でグラフィックを専攻後、印刷会社に入社。2003年、ジュエリー専門学校に入学し、「JJAジュエリーデザインアワード新人大賞」「伊丹国際クラフト展審査委員賞」を受賞。05年、ジュエリーメーカーのデザイナーに。08年、talkativeを立ち上げ、11年、ブライダルラインをスタート。同年、株式会社シャベルを設立。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
大学でグラフィックを学び、印刷会社に就職後、ジュエリーデザイナーを志したマロッタ忍氏。独立を目指し、24歳でヒコ・みづのジュエリーカレッジに入学、パートナーとなる女性に出会う。互いに社会人経験を持つ二人は、在学中から戦略的に動いた。
「当時は量産型のジュエリーが主流。少しでも他の人と違うものを身に着けたいとなるとハイエンドなアートジュエリーしか選択肢がないという時代でした。私たちはその中間を目指していたので、従来の技法を学べるメタルクラフトのコースとアートジュエリーコースに分かれて専攻することに。学んだ技術を教え合い、対極にある2分野をお互い効率的に学ぶことができました」
卒業後も異なる分野の企業で働き、独立に向けた知識を蓄えることに。パートナーはジュエリーの卸会社で販売スキームを、自身はジュエリーメーカーでデザインを学んだ。量産品からハイジュエリーまで携わり、「手の届く価格」と「こだわり」を両立させるためのスキームを検討していった。
08年に二人でブランドを設立するが、パートナーの出産に伴い、11年より一人でブランド「talkative」を手がけることになる。
「デザインの中に小さなサプライズを隠して、『おもしろいピアスだね』といった会話の生まれるジュエリーをつくりたいのです。原点は幼い頃、海外赴任していた父がお土産にくれたパズル・リング。バラバラのパーツが手品のように一つに戻る驚きと楽しさの原体験が、遊び心あるデザインにつながっています」
マロッタ氏は、学生時代から地金を柔らかく見せる技術や手法を追求し、様々な素材の魅力をグラフィカルなデザインに置き換えて表現している。「グラフィック出身なので、三次元の彫刻的な立体をつくることは苦手なんですね。逆に、平面でものをとらえ、立体に起こす作業なら飽くことなく追求できるのです。苦手を排して得意なことに専念しようと考えた結果でしたね」
たとえばチェーンの魅力を平面で表現した「フェイク」は、コピー機で本物のチェーンを何度も写し出し、意図せずして生まれる形状の美しさを地金でかたどったもの。チェーンを見下ろした形状をネックレスのトップにした意外性あるデザインだ。一方、宝石の二次元図がモチーフの「ジュエルスライス」は、平面的にカットした地金を丸めて立体のリングにした。マット加工した後、手作業でエッジ部分を磨くこだわりも隠されている。
「ほかとは何かが違うと感じてほしくて、見た目以外の部分も丁寧に仕上げています。目指しているのは、奇抜さではなく、”一生身に着けられるジュエリー”。それに相応しいものづくりを続けていきたいと思います」
11年からは「一生に一度の大切な指輪」となるブライダルラインもスタート。自分のためにつくったマリッジ・リングがバーニーズ・ニューヨークのバイヤーの目に留まったことがきっかけだ。ひと味違う存在感が、新たな輝きを生み出し続けている。