ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
雪浦 聖子
1978年生まれ。幼少期から高校時代まで父親の転勤で全国を転々とする。東京大学工学部船舶海洋工学科卒業後、住宅設備メーカーに勤務。その後、エスモードジャポンで服飾デザインとパターンを学ぶ。卒業後、「YEAH RIGHT!!」にてアシスタントを2シーズン経験。2009年、自身のブランド「sneeuw」を設立。2015年10月下旬に、著書『シェアするワードローブ』(文化出版局刊)が発売予定。趣味はサイクリング。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
シンプルさの中にちりばめられた遊び心あふれる仕掛けが、デザインを豊かにする。日常生活に寄り添いながらも、新しい発見をもたらしてくれる服――それが「スニュウ」の魅力だ。デザイナーの雪浦聖子氏は、業界では珍しい東京大学工学部卒という経歴を持つ理系女子。大学4年生の時に観たオランダのデザインプロダクト展『DROOG&DUTCH DESIGN』が、彼女のデザインの基点だ。
「ダッチデザインを牽引してきたデザイン集団のユニークな作品は衝撃的でした。そっけない電球を集めたシャンデリアや引き出しを束ねたチェストなど、普段身近にあるものの見方を変える発想に魅了されました」
オランダ語で“雪”を意味する「スニュウ」をブランド名としたのも、この時の体験からだ。幼少の頃から洋服が好きで、遠足の日には何を着るか考えるのが楽しくて仕方なかったという雪浦氏だが、大学卒業後は住宅設備メーカーへ就職。4年間勤務した後に退職し、エスモードジャポンでファッションの勉強を本格的にスタートする。
「メーカーでは製品設計を担当していましたが、かかわる人数が多く、個性が反映できる範囲が少ない。次第に、小さくてもいいから自分の好みを注ぎこめるものづくりをしたいという思いが強くなっていきました。昔から好きだった洋服であれば一人でもつくれるし、一枚でも製品として成立すると考え、ファッション業界に進むことを決めたのです」
エスモード入学時から、独立を念頭に置いて授業と課題に取り組んだ。授業では、常にコンセプトの打ち出しについて厳しく問われ、毎シーズン、ポートフォリオを作成しながら自分が求めるデザインの本質を見極めていく。現在のブランドコンセプト“clean & humor”は、その頃に生まれたもの。メーカー勤務時代に好きだったなめらかですっきりした造形に、DROOGから影響を受けたユーモアのエッセンスを加味している。
エスモード卒業後、「YEAHRIGHT!!」のアシスタントとして、ブランドを立ち上げる基礎を学び、2009年、自身のブランド「スニュウ」を設立。シーズン毎のテーマはあえて設けない。
「自転車に乗っている時に頭に浮かんできたフォルムやアイデアをメモに残し、見返してデザインしています。私の服づくりは、半年の間に自分の頭の中で描いたイメージの集大成という感じ。テーマを設定することで、つくれないものが出てきてしまうのはもったいない気がするんです」
将来はファッションだけでなく、“暮らし”のトータルデザインを提案していきたいという雪浦氏。16年には、「STOF」の谷田浩氏と器の新ブランド「Walternattif」を立ち上げ、展開する予定だ。マイペースで、しかし時には力強く自転車を漕ぐように、既存の概念に縛られず、自由でユニークな世界を生み出す「スニュウ」。丁寧に綴られた私小説のような心地よさと、まだ誰も眼にしたことのない新しい驚きを、これからもたくさん届けてくれるだろう。