ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
坂部 三樹郎
1976年、東京都生まれ。成蹊大学理工学部卒業後、2006年、アントワープ王立芸術アカデミー・ファッション科を主席で卒業。07-08年秋冬コレクションをパリで発表。台湾出身のシュエ・ジェンファン氏とともに「MIKIO SAKABE」を設立。アニメやマンガ、アキバ系アイドルとのコラボレーション、山縣良和氏とともにプロデュースした「絶命展」も話題に。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
論理的な思考で、アニメやアイドルなどファッションの領域を超えたプレゼンテーションを通して、東京の新しいファッションシーンを担う坂部三樹郎氏。彼のクリエイションを語るうえで欠かせないのが、超難関といわれるベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーを主席で卒業した経歴だ。
幼い頃から美術に興味を持っていたが、両親から一般大学を出れば好きなことをしていいと言われ、成蹊大学へ進学。卒業後ロンドンに渡り、セントラル・セント・マーチンズで念願のアートを学ぶ。そこで「アートよりファッションのほうが、ビジネスとして成立しやすい」という先生のアドバイスを受け、ファッションへと転向。パリのエスモードで、2年間ファッションの基礎を学んだ後、憧れのデザイナーが教鞭を執るベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーの門を叩いた。
「アントワープで1年から2年に上がれるのは約半数。睡眠時間を削って膨大なワークをこなす中、表現でどう戦うか、その考え方が鍛えられたし、忍耐力も身につきました」
アントワープでは1年目で自分のオリジナリティを見つけ、2年目は西洋服飾史を学び、3年目には民族衣装を探求。4年目で自分のテーマを発表する。
「課題では、西洋の服も民族衣装も、伝統的な服飾をそのまま再現します。でも日本人が西洋の服を手がけると、些細なニュアンスが理解できず、どこか違うものができてしまう。西洋人が和服をつくるようなものです。そこで4年次に自由課題を選ぶ際、自分のルーツである日本に立ち返り、そこで生まれた平面的なサブカルチャーがどれくらい世界に響くか、可能性を確かめてみようと思いました」
そして、アニメやマンガなど二次元の文化を取り入れた作品が、卒業展での主席をもたらした。
そんな優秀な人材をヨーロッパが放っておくはずがなく、卒業後は様々な有名ブランドからオファーが舞い込んだ。ベルギー出身のラフ・シモンズ氏率いる「ジル・サンダー」もそのひとつ。だが、彼が選んだのは独立の道だ。ブランドを立ち上げ、パリコレに参加した後、すぐに拠点を日本へと移した。
「ファッションは必ずしも欧米主導ではなくなり、今や東洋や中東の新しい才能や文化が流入している。これからは、日本やアジアから世界へと発信していくのが面白い。それに今のアパレル産業のシステムはまだ歴史が浅く、ここ50年でできあがったものでしかない。今後もっと進化していくと思うんですよ」
また坂部氏は、服と人との関係性にファッション性を持たせることがデザイナーの役割であると言う。
「美しいものをつくって服そのものの価値を高めるだけではファッションにたどりつけない。ファッションとは“今これを着たい”と思う『服と人間との関係性』そのもの。そこには服との出合い方と出合う場所が大きく影響します。もしかしたらアキバ系アイドルも、服と人の新しい出合いの場となってファッションになるかもしれない。服はその関係性を生むための装置。これからもいろんな実験をしていきたい」
文/藤田由美
撮影/細谷 聡