ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
堀畑 裕之/関口 真希子
堀畑裕之:大阪府生まれ。同志社大学文学部卒、同大学院ドイツ哲学専攻修了。関口真希子:東京都生まれ。杏林大学社会科学部法律政治コース卒。その後、共に文化服装学院アパレルデザイン科へ進学。1998年より、それぞれパタンナーとしてブランドに勤務し、2005年、matohu設立。06年より、東京コレクションに参加。09年、毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞受賞。11年、「慶長の美」展(スパイラル、熊本市美術館)。12年、「日本の眼―日常にひそむ美を見つける」展(金沢21世紀美術館)。13年、国際ウールマーク賞日本代表。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
「日本の美意識が通底する新しい服の創造」をコンセプトに、歴史や文化を探究し、独自のスタイルを表現するマトウ。大学院で哲学を学んだ堀畑裕之氏の転換点となったのは、KCI(京都服飾文化研究財団)が主催した「モードのジャポニズム」展。三宅一生、山本耀司、川久保玲などの日本人クリエイターが生み出すファッションは単なる消費材ではなく、文化や時代を築いているのだと開眼する。一方、幼い頃から装うことに関心があった関口真希子氏は、服づくりが好きな母のもと、自分が着たい服は自らつくるという環境に育つ。ともに文化服装学院入学後、意気投合。在学中から舞台やダンスの衣装制作など、セミプロ的な活動を行った。卒業後、二人はパタンナーとして別々の企業で経験を重ねていくが、互いに、拭いきれない疑問を抱くようになる。「日本のブランドは海外のトレンドを追いかけ続けている……。それでは、永遠に後追いのままだと考えるようになりました」と堀畑氏は当時を振り返る。
二人は今まで培ってきたパターン技術や発想をリセットしたいと考え、渡英。あえて異国の地で、日本人がどのような美意識でものをつくり、未来に向けて何が提示できるのかを二人で掘り下げた。
「歴史や言葉、自分の根の部分、美しいと思う感性といったオリジンを踏まえて新しいものづくりをする。これが、自分のオリジナリティの表現よりも強いのではないだろうか」という答えに辿り着く。
そして生まれたアイテムが、マトウを象徴する「長着(ながぎ)」だ。肩線がなく布が身体に馴染む和服の特性を生かしたデザインだが、ステレオタイプな“ジャポニズム”を表現する服ではない。彼らが目指す、西欧服装の歴史や文脈から切り離された“日本”のかたちがそこには存在する。
ビジネス的な拡大を意識しながら、マトウのコンセプトを世界各国に種まきすることが今後のテーマ。
「グローバル化が進展する現代の中で、消えつつある大事なものを、その国、その民族のオリジナルな美意識、歴史、文化を踏まえて、その国の人がコンテンポラリーなかたちに変えていく。そんな、プロジェクト型のブランド形成を目指しています」
将来的には京都に拠点を構え、文化発信の“場”としての機能を強化する計画だ。そしてこの6月、ブランド設立10周年を記念し、根津美術館の茶室で開催する「matohu 長着茶会」がその第一歩。堀畑氏と関口氏がお茶を点ててお客さまをもてなし、これまでに出会った作家やアーティストが制作した茶道具を並べる。
「ファッションを通じて生活文化を創造していきながら、ひとつの価値観や概念で括られるのではなく、多様性を楽しむ豊かさを発信するブランドにしていきたい」と関口氏は語る。
世界中にまかれたマトウという種が、大地に根差し、花を咲かせ、実となり土へ帰る。そして、それぞれの場所に適応した新しい生命が芽吹き、独自の成長を遂げていく。ブランド名“マトウ”は、服を“纏う”と、成熟を“待とう”という意味を持つ。二人が未来へ向けて発信する独自ビジョンは、ファッションの新しい可能性を広げていくことになりそうだ。