JUN OKAMOTO岡本 順

ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは？ファッションで目指す世界観とは？

ファッションは、人が着てこそのもの。記憶に残る服づくりを

オーダーメイド洋装店を営む母の姿を見て育った岡本順氏は、自然とデザイナーの道を志したとい う。文化服装学院卒業後は、パリのステュディオ・ベルソーで学び、アレキサンドル・マチューのアシスタ ントを経験。リメイク作品をコレットに置くことから始め、２００５年パリにて「JUN OKAMOTO」（ジュンオカモト）をスタートする。やがて日本の取引先が増え、10年に帰国。翌年、パルコ主催のファ ッション特化型クラウドファンディ ング「ファイト ファッションファン ド」に選出され、その後、代官山にショップもオープンした。「パリ時代はマイペースでしたが、 ファンドを活用し投資を受けたこ とで、ビジネスとして数字を挙げ る重要性を学びました。また、自ら店頭に立つなか、服を選ぶ時には『日常で着られるか』『洗濯できるか』などの着眼点もあると知り、ファッションは人が着てこその ものだと痛感しましたね」
１１年には、故郷・熊本にセミオ ーダーの店舗をオープン。パターンと生地を組み合わせ、袖丈や身丈なども自在に変更できる。「量産によるブランドの拡大より、もっとファッションを楽しんでほしかった。自分でデザインした服は 思い出に残るもの。記憶に残る服をつくりたい。デザインだけでない楽しさをもう一つ提供したいと思い始めたのはこの頃からです」

自分で物語を紡ぎ、 言葉とデザインを 結びつける新たな試み

岡本氏のコレクションにおける大きな特徴は、「一つの物語から構 成されていること」だ。自ら１０００文字以上の短編の物語を書き上げ、そこに登場する男女の様々なシーンをイメージしながらデザ インに落とし込んでいる。「かつてはテーマを決め、それに 添ったデザインを考えていました が、 １２年以降、手に取る人がより 楽しめることを意識するようになりました。2017年秋冬の 物語のタイトルは、『チャイコフス キーからの手紙』。『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』、『眠れる 森の美女』などの世界観を思わせる男女の恋のお話です。カタロ グには、この物語とともに、シー ンに合わせ、湖や森を背景とし たコレクション写真を掲載してい ます」
　また、アイテムそれぞれには、一点一点、名前が付けられている。
「例えば、『彼女を守るためのコ ート』など、自分の物語を投影し やすい言葉を使うことで、よりイ メージが伝わりやすくなったと感じますね。
お客様が新しい服を購入する際、こうした言葉が記 憶に残り、『なぜこの服を買ったの か』というその時の気持ちや出来 事を思い出せるようなものになれ ばと」 自身が物語を発想する時も、 日々の生活のなかで蓄積された記 憶がもとになっているという。 「ふとした瞬間に頭の中に浮 かんだ風景や言葉がテーマとな り、無意識下でインプットしてき た日々の記憶がパズルのピースの ようにつながって物語が生まれ ます」 言葉とデザインを結びつける斬新な表現で、より鮮明に世界観を伝え、やがて記憶に残る特別な一着となる。そして、岡本氏の服は 着る人自身を新しい物語へと導いていく。