ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
中井 英一朗
文化服装学院、文化ファッション大学院大学卒業後、「Yohji Yamamoto」でパタンナーとして研鑽を積み、退社後「a t o 」でチーフパタンナーを務める。その後、渡英し、「Alexander McQueen」に入社。シニアパターンカッターとして、サラ・バートンから絶大なる信頼を得る。特にジャケットに関してはコレクションラインをほぼ任され、同ブランドのドレス製作、『VOGUE』誌撮影などのスペシャルプロジェクトも担当。2014年6月、自身のブランド創設のため帰国。15年、「Tokyo新人ファッション大賞」プロ部門において、支援デザイナーに選出される。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
ブランドテーマに〝クラシック&クリエイティブ〞を掲げ、コレクションを展開する「エルザ ウィンクラー」。クラシックといえど単なる懐古主義とは一線を画し、確かなクチュール技術でエレガントなアレンジを効かせた新時代のクリイションに、今注目が集まっている。
クリエイティブディレクターを務める中井英一朗氏は、自身のブランドにおけるモットーをピカソの絵画に例えて語る。
「ピカソの絵と聞いて、キュビズムの絵画をイメージする人が多いですが、彼に卓越した基礎技能があるからこそ、奥行きや説得力の備わった絵画が成立するのだと思います。同じように僕も服の基礎の部分を常に大切にしていきたい」
また、国内外のトップメゾンで得た経験も中井氏の服づくりの礎となっている。「ヨウジヤマモト」「アトウ」にてパタンナーを務め、「アレキサンダー・マックイーン」では、シニアパターンカッターとして、サラ・バートンから絶大なる信頼を得るなど、コレクションをほぼ任された。
「世界のトップブランドでの仕事は、求められる成果も非常に高度です。また、それが当然のこと。その経験によって、クオリティに対する確かな眼や妥協を許さない姿勢が培われました」
2016年秋冬には、「小径」をテーマとしたコレクションを発表。エレガントなシルエットにフレッシュな感性が際立つ素材を重ねたモダンなクチュールで、みずみずしい女性像を描きだした。今年のトレンドカラー、バーガンディ色に染まったベルベットのキルティング、バイカラーのパレットがヴィヴィッドな印象を醸すウール素材、市松模様のシャギーなウールをベルベットリボンのトリミングで引き締めたアレンジなど――特別ではない素材に巧みなテクニックを加えることで、新鮮な存在感を放つことに成功している。
「常に意識するのは、シルエットとカッティング。美しさを引き出すには、素材との相性が非常に重要です。カッティングから生まれるシルエットが〝化学反応〞を起こすような、素材選び、生地づくりを大切にしています」
残念ながら日本文化には、イブニングなどの豪奢なドレスを着る機会そのものが少ない。しかし、これからも〝ドレスな服〞づくりにこだわり続けていきたいと中井氏は語る。
「女優がレッドカーペットを歩く時に纏うドレスは、人の心を動かすことができる。今後も人に感動を与えられる服づくりに注力していきます。現在、展示会ベースでコレクションを発表していますが、ブランドの世界観を打ち出した単独のショーも開催し、ハンガーやマネキンではなく、実際に人が装った時の布の揺れや風を孕むシルエットの美しさを伝えたい」
また、服づくりの先にある、イベントも企画中だ。例えば、ホテルやホールなどの大きな空間にイブニングを着て集う〝社交場〞づくり。そういった〝場〞を、ファンである顧客に提供する計画も進めている。
着るだけで当たり前にすぎていく日常を変化させ、気持ちがたかぶるドラマティックな感動を与えてくれるエルザ ウィンクラーの服。装う人との関係性をも踏まえた新時代のエレガンスが、遠くない未来、東京の街を華やかに彩ってくれそうだ。