ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
大江 健
1977年、山形県生まれ。大学卒業後、IFIビジネス・スクールでファッションマーケティング、デザインなどを学び、セレクトショップに就職。販売・店舗運営を5年半経験した後、30歳で生家の稼業であるニットメーカー・米富繊維株式会社に入社。独自のニットテキスタイルを生かしたファクトリーブランド「Coohem」を立ち上げる。2010年秋冬からコレクションをスタート。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
山形県の老舗ニットメーカー・米富繊維が、2010年にスタートさせたブランド「コーヘン」。ブランド名は、ニットの生産用語「交編(こうへん)」に由来する。ニットで織物のようなツイード生地をつくりだす技術で、糸や素材の組み合わせにより様々な表情が生まれる。米富繊維が業界で圧倒的優位を誇る技術だ。交編のツイードを使ったコーヘンのアイテムは、その美しい色合いで日本をはじめ、アメリカや香港など、海外でも人気が高まっている。
大江健氏はディレクターとしてコーヘンを立ち上げ、ブランドを率いてきた。大学卒業後、セレクトショップに就職。30歳の時、父であり現社長・大江富造氏に対してファクトリーブランド事業の話を持ちかける。セレクトショップ勤務時代に、米富繊維のOEM製品に触れ、そのクオリティの高さを実感していたのだ。「この技術を埋もれさせておくのはもったいない。これこそ自分がやる意味がある」と決断し、米富繊維に入社。
最初の2年間は、ベテラン職人からニットの製造技術を学び、ものづくりの知識を吸収し続けた。その積み重ねの日々がブランドの方向を決定づける。
「コーヘンブランドで、世界で絶対に負けないものづくりをする。さらに、経営の安定だけでなく、技術レベルを向上させながら、優秀な人材が育っていく場をつくることを目指しました」
企画やデザインを外部に依頼するファクトリーブランドは多い。だが「経営的にも米富繊維にとって、このブランドが最初で最後。もし失敗した時に人のせいにするのは嫌だった」と言う大江氏は、すべてを自分一人で進めることを決意した。
デザインを考え、営業に奔走する。取引先ができると店舗に直接足を運び、商品知識や接客方法を伝えて回った。また、合同展示会に積極的に参加し、パリの展示会無料参加の募集を知った際は、必死で英文書類を書いた。
「やれることはすべてやる――」
この姿勢はコーヘンのスタッフが増えた今でも変わらない。
その努力の末に掴み取ったパリの展示会参加が、コーヘンが世界に向けて大きな一歩を踏み出すきっかけとなった。
コーヘンを立ち上げる時、友人たちに相談すると、全員が「無理だよ」と答えたそうだ。
「今でもはっきり覚えているのは、『工場はダサいから、かっこいいものなんてつくれっこない』と言われたことです」
だが、海外のバイヤーたちの反応は真逆だった。
「『あなたの工場は何年続いているのですか?』と聞かれ、『60年です』と答えると、その歴史が高く評価される。日本とは捉え方がまったく違うんですよ」
この反応が大きな自信となった。大江氏は、海外の小売店に直接営業をかけ、反応があれば世界中どこへでも向かう。言葉が通じなくても、つくったもので通じ合えるのだ。
「僕たちの会社でしかできないシンボリックなものづくりで、ニットメーカーの新しい姿を追求していきたいですね」