ファッション業界で活躍する若手クリエイターをピックアップ
中原 緑
北海道生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイルデザイン科卒。2007年、寝具メーカーに入社し、商品企画を2年経験。09年より、フリーランスデザイナーとして独立。
アパレルブランドにテキスタイルデザインを提供しつつ、自身のブランド「eternal tendernessgreen」の活動もスタート。17年、「apples &oranges」に参画。
ファッション界に新しい旋風を巻き起こす新進気鋭のクリエイターたち。次世代を担う彼らのクリエイションとは?ファッションで目指す世界観とは?
テキスタイルデザイナーの中原緑氏は自然環境に恵まれた北海道で生まれ育ち、幼い頃から毎日、絵を描いていたという。
武蔵野美術大学でテキスタイルデザインを専攻したのは、「人の生活に根づき、実際に手で触れられるものをつくりたい」と考えたからだ。卒業後、寝具メーカーで商品企画に携わるが、デザインへの思いは消えなかった。
「そんなある日、憧れていたアパレルブランドのデザイナーが来場するイベントに参加しました。そこで、デザイナーに熱意を伝え、自分のポートフォリオを渡しました。その時反応はいまひとつでしたが、その後、自分がデザインした生地を何本も担いで訪問し続けた結果、彼が手がけるブランドラインの一つでテキスタイルデザインを手伝えることになったのです」
これを機に中原氏はフリーランスのテキスタイルデザイナーとして独立したが、すぐには食べていけず、様々なアルバイトを経験した。そんななか、セレクトショップ「ハバダッシュリー」で接客の仕事をした時に、大きな気づきを得る。
「自分にフィットする服を見つけて笑顔になるお客さまの姿に、デザインの力を改めて実感しました。私自身、落ち込んでいてもお気に入りのブラウスに袖を通すと心が軽くなり、背筋がしゃんと伸びます。ほんの些細なことで、人の気持ちは救われたり、いい状態になるきっかけをつくる力がある。そしてデザインには人々の生活を物質的にだけでなく、精神的にも豊かにする力がある、と」
現在、中原氏は、フリーランスとしての活動を続けながら、自身のブランド「eternal tendernessgreen」も手がけている。さらに、兄の会社の元同僚だった小田駿一氏から請われ、小田氏が代表を務めるテキスタイルブランド「apples & oranges」のデザインも手伝うことに。
「優れた技術力を持つ日本のものづくり職人を応援するブランドを立ち上げたい」という思いに共感し、クリエイティブディレクターの佐久間海土氏を含めた3人でユニットを結成、活動をスタートした。
「何度も話し合った結果、『人の生活を豊かにするものをつくろう』という結論に達し、まずは日常生活で持ち歩けるバッグをつくることになりました。3人が視点の違う意見をぶつけ合いながらコミュニケーションすることで、新たな化学反応が生まれています。一人でつくる自分のブランドとは、また別の面白さがありますね」
2017年4月、ブランド第1弾として発表したのが、中原氏のテキスタイルと東京の縫製職人の技を生かしたハンドメイドバッグだ。日常の柔らかな自然の風景を切り取ったデザインが評判を呼んでいる。
「私が大事にしているのは、ふとした瞬間に感じる日常の〝余白〞です。例えば風が頬を撫でる瞬間を感じ取れるのは、心のゆとりがあってこそ。人の暮らしに寄り添い、普通の一日に特別な気持ちを感じられるものを届けていきたいです」
得意分野の異なる3人が、それぞれの力を融合させ、新たなデザインを生み出す。心地よい日常の〝余白〞は、そうやってつくられていく。