業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
太田伸之
1953年、三重県生まれ。明治大学経営学部を卒業後、渡米。8年間ニューヨークでジャーナリストとして活動。85年に帰国して東京ファッションデザイナー協議会(CFD)を設立し、東京コレクションを開始。95年に(株)松屋営業本部顧問、(株)東京生活研究所専務取締役を経て、2000年より10年間(株)イッセイミヤケ代表取締役社長を務める。06年(社)日本ファッション・ウィーク推進機構理事、13年より現職。
クールジャパン機構は、「メディア・コンテンツ」「食・サービス」「ファッション・ライフスタイル」をはじめとする"日本の魅力(クールジャパン)"を事業化し、海外需要の獲得につなげることを目的に発足した官民ファンドです。約2年活動を続けていますが、ファッションの分野ではまだ投資という形でお手伝いできていません。
その原因のひとつは、古い商慣習から抜け出せないこと。日本では委託販売が主流で、百貨店や小売店のマージンが低く抑えられています。しかし、海外では買い取りが基本のため小売店のマージンが大きく、日本ブランドの服が国内に比べて海外では数倍の価格となる。これでは国際競争に勝てず、パリコレでどれほど評価されても、実際に売れなければビジネスは成立しません。海外の現地ブランドとの価格競争を回避するためには、海外で起業し、小規模でもいいから自社の小売店を出店する、あるいは、本当に信頼できる小売店をパートナーにして、Win-Winの関係を築くといった方法が必要になるでしょう。
一方、最近の世界のトレンドを見ると、日本の可能性を感じるものもあります。そのひとつがメンズのストリート系ファッション。アメリカ西海岸のIT系エリートたちは、ビジネスでもネクタイはおろかジャケットすら着用しません。彼らが好むのは、カジュアルな服装です。日本のデザイナーにとって、この傾向は大きなビジネスチャンスです。アカデミー賞授賞式に登場するようなドレス衣装のデザインは、エレガントな服をつくる文化を持たない日本人には難しい。でも、レッドカーペットを歩くスターたちが”日常”で着る服であれば可能性がある。彼らが好むユニークなカジュアルウェアをつくれるデザイナーが、日本にはたくさんいます。欧米のファッションリーダーは富裕層の大人が多いのですが、片や日本は、ごく普通の若者たち。 欧米のラグジュアリーな感覚とは異なる、若さ溢れる服をつくれることが強みになるのです。 実際に、モンクレールはsacaiの阿部千登勢など、日本のデザイナーとコラボレーションしています。彼らは、大人のラグジュアリーは自社でデザインできるけれど、「遊び心あるカジュアルなデザインは日本人のほうが得意」とわかっているし、きちんとマーケティングしているからよく売れる。こうした日本のカジュアルが受け入れられるマーケットは世界中に育ちつつあり、そこに日本の若手デザイナーのチャンスもあります。
今後、国内市場はシュリンクしていきますが、新興国は成長していきます。だからこそ、若手クリエイターは世界に目を向け、自ら売ることも視野に 入れて考えるべき。立派なショップなど必要ないのです。キャンピングカーで移動販売をして、インターネットで移動先を告知すれば集客もできるでしょう。また、パリコレだけを目指さなくてもいい。今や自分の作品を、世界に向けて簡単に映像配信できる時代です。ただし、そこにも感動を与える斬新な仕掛けは必要です。
新しいこと、面白いことを発信していけば、世界の目利きが放っておくはずがありません。そういっ た挑戦には、クールジャパン機構としてもぜひ応援し、投資していきたい。日本のファッションは、服のデザインはもちろん、服の見せ方、売り方、プロモーション......すべてが次のステップに進む時期にきています。新しい発想でビジネスモデルを考え、古 い価値観を打ち破る“何か”が生まれてこそ、日本のファッションは「クールジャパン」のひとつとして世界に新しい価値を打ち出すことができるのです。