業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
仁野 覚
1945年、大阪府生まれ。大阪芸術大学を中退して、渡仏。エスモード パリのデザイン科で2年間学び、74年に卒業後、日仏をつなぐファッション関係のエージェントをフランスで設立。84年にエスモード ジャポン東京校、94年に大阪校を設立し、2000年より世界14カ国21校を展開するエスモード インターナショナル代表。現在はパリに暮らし、世界中を飛び回る。
私は、日本の大学でアートを学んでいましたが、ファッションイラストレーションの勉強をするためにフランスに留学。卒業後は、現地で日仏のファッション関係企業のコーディネートを行う会社を設立しました。ある時、フランスの有名デザイナーと日本企業との契約更新で、日本側があまりにも理不尽な対応を受ける場面を間の当たりにしました。世界のファッション界で堂々と渡り合える人材が日本の中にはいない……その現実に愕然とした私は、「国際的な視点を持った人材を育てるには教育からやり直すべきだ」と思い立ち、母校のエスモード パリに日本校設立を持ちかけました。それが、海外では初開校となるエスモードの東京校が誕生したきっかけです。
それから約30年の時が流れましたが、国際的に活躍できる人材のベースをつくるという私の思いは、今でも変わっていません。そして、そのために必要なのは、「創造力」「技術力」「独自性」であり、この3つが備わった人材は、世界で勝ち残っていけると信じています。
こうした力を育むために重要なのは、情報のインプットを増やすこと。服飾の歴史はもちろん、文化、芸術、建築など、多彩な教養のインプットが多ければ多いほど、アウトプットも豊富になります。服のテーマを考える際には、そのソースから情報を引き出し、何を選択し組み合わせるかを整理する。そして服として具現化していく――。これが創造力であり、その人の独自性になります。
また、服をつくる=無から有を生む難しい作業、才能が必要だと思いがちですが、科学的・論理的な作業と捉えるべき。才能があるに越したことはありませんが、論理的な思考力とライバルの2倍汗をかく覚悟があれば、成功は難しくありません。
現在、エスモードは世界14カ国、21校を展開しています。かつて日本人学生は、常にトップレベルにいました。ですが、今やそのポジションは中国人学生にとって代わられています。パリ校には中国人留学生も多く、デザインレベルも高い。ソウル、ジャカルタ、ベルリン校の学生のレベルも上がっています。世界は動いているのです。
日本には素晴らしい技術力があり、脈々と受け継がれてきた伝統や文化、モノづくりやビジネスに真摯に取り組む真面目さがある。その技術力と仕事に対するモラルを身に付ければ、必ず世界に出て勝負できる。実際にフランスの多くのクチュールメゾンが、日本の手工芸技術の高さを認め製作を依頼してくれています。また、欧米のファッション業界は「日本人なら採用したい」と、仕事に対する姿勢を高く評価している。ところが、そのことを日本人自身が認識していないのです。私は実にもったいないと感じています。
そんな実情を知ったうえで、日本の価値観だけを鵜呑みにせず、外の世界を自分の目で見て判断することは、とても大切です。デザイナーを目指し、将来世界に飛び出していくか、日本に留まるかは、あなた自身で決めること。ですが、人生は一度きりなのだから、失敗を恐れずチャレンジしてほしい。今やっていることを結果に結び付ける努力を続けてほしい。
日本の企業も目先の収益にとらわれ過ぎず、自社のブランド力向上やアイデンティティー構築に注力する人材を育てるべき。政府もリサーチは念入りに行っているようですが、人や企業の将来を見据えたサポートができていない。このままでは、次代を担う人材が育ちません。国も企業も“優れた人材”がいなければ、存続できないのです。今、日本は“人づくり”の考え方を、本気で見直すべきタイミングにあると思います。