業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
磐井 友幸
1982年、東京都生まれ。中央大学理工学部卒業。中学時代は趣味で集めていたスニーカーをフリーマーケットで売買。大学時代は中学・高校の同級生の齊藤英太氏と、問屋で仕入れたレディースアパレルをヤフオクで売買。
その流れで、大学卒業と同時に齊藤氏と株式会社ネバーセイネバーを設立。現在もスニーカーを収集していて、約700足を所有。
実店舗を持たず、EC発信だけでブランドを生み出すネバーセイネバー。創業者の磐井氏にとって、ECは必然だった。
「大学3年時から、現在共同代表を務める齊藤と、問屋でレディースの服を仕入れてヤフオクで売買していました。起業はその流れだったので、当時は手元に資金がなく、ECでしかやりようがなかったのです」
現在は、『STYLE DELI 』をメインに7ブランドを展開。
コンセプトはそれぞれ異なるが、共通するのは「価値あるものを、価値ある価格で提供する」という信念。価値あるものとは、品質やデザインが優れていること。価値ある価格とは、価値に見合った適正な価格を意味する。
それを陰で支えているのが、渋谷区の本社内にある縫製ファクトリー「STYLE DELI Factory &Lab.」の存在だ。
「日本の縫製技術は、非常にレベルが高い。しかし低賃金、長時間労働、縫製工場の立地場所の不便さなどが原因で、若者離れが進み、技術の継承者がいないのが現状です。そこで、渋谷という都心にファクトリーを構え、若い技術者を育成していこうと考えました」
若手の縫製技術者を統括するのは、技能五輪全国大会で受賞歴を持つエキスパート。ファクトリーは、STYLE DELIのサンプル作成や一部量産を担っている。
自社にファクトリーを構えることで、メイドインジャパンの高品質な製品を提供できるだけでなく、サンプルの確認や修正もすぐに行え、生産スピードも短縮できる。
材料の調達状況にもよるが、従来のアパレル企業が半年から1年かけて送り出す商品を、1カ月程度で提供することが可能だという。
約2年前、ファクトリーとほぼ同時期に、ショールームも社内に設置。サイズ感や素材感を知り
たい人のために、商品を手に取って試着できるスペースを設けた。
当初は予約制だったが、より気軽に利用できるよう、毎週金曜の3時間は予約なしで訪問を受け付ける。
「商品に触れたり、試着したりする場が店舗である必要はないし、いわゆるプレスルームも本当に必要なのか疑問でした。それよりも、一般の人たちにストレスなく試着を楽しんでもらう方が大切。また、接客は社員が行うので、服づくりに込めた思いを直接伝えられるというメリットもありました」
ECと実店舗を併用する企業は多いが、磐井氏は、今後も実店舗を構えるつもりはない。
「店舗を構えると、家賃を払い、在庫を抱え、接客スタッフを配置しなければならない。店舗運営のために売り上げを気にしたり、型数を多くつくるようなことになっては本末転倒。そのコストを価格に乗せられては、お客さまも不幸ですよね」
コストと価格とのバランスにも、ネバーセイネバーの信念が見える。
「そもそも、セールありきで価格設定していることがおかしい。セール前提で原価率を2割台に設定するなら、最初から5割程度の誠実な原価率にする。その代わり、セールはしないという哲学を、僕は大事にしたい。その方が、高品質の服を提供できるし、縫製工場への還元にもつながりますから」
対前年比の売上目標を掲げ、大量生産し、セールを行い、売れ残ったら廃棄処分にする。旧来のファッションビジネスの仕組みに、磐井氏は疑問を感じてきた。
「ビジネスなので仕方ない面ももちろんありますが、僕たちは売り上げのために服をつくることはしません。揺るがない信念を持ち、魂を込めて服をつくり、〝最高に幸せになれる服〞を提供することが目的ですから。最も大切なのはクリエイティブであることなんです」
磨き上げられたクリエイションこそ消費者への最大の価値。
そのため、すべての判断の基準は「クリエイティブを守ること」に置かれる。例えば、クリエイティブディレクターの世界観を歪めることなく、商品に投影できるような制作環境を整える。
買う人に世界観をストレートに伝える仕組みを、徹底して追求する。
ファクトリーもショールームも、全てその延長線から生まれた。さらに、質の高いクリエイテブを生み出すため、心地よいオフィス環境にもこだわっている。
磐井氏の視線は、ファッションという枠を越えた未来をとらえているようだ。
「ファッションで確かなクリエイティブの感性を培ってきました。『ネバーがやれば、レストランでも旅行でもカッコいい!』と認知される〝世界一のクリエイティブカンパニー〞が目標です」