業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
サトウミカ佐藤 美加
さとう・みか/装苑賞内rooms賞をはじめとした審査員や、各種セミナー、シンポジウムにて講師を務める。自身が福島県出身だった事から、震災後始めた地場産業活性化プロジェクトでは、福島県のプロデュースを皮切りに様々な地方自治体、事業者、職人との協業を展開。また商品開発やアドバイザーなど「売ること」を得意とする、独自の企業プロデュースも多数実施。
私がroomsをスタートしたのは17年前のこと。
バイヤーとして海外の展示会を巡るなかで、「日本のファッションは世界に追いつきつつある」と思えた一方、「服飾雑貨についてはまだまだだ」と感じたことがきっかけでした。
当時、海外では当たり前だった「何も入らないサイズだけど最高におしゃれなバッグを持ちたい」といった価値感は、私たちが提案するまで日本では理解されませんでした。
そこで、国内に価値あるデザインやつくり手を発見しやすい環境をつくろうと。また、展示会場の食べ物はまずいし肉体的にもきついし、バイイングは過酷な業務だというイメージも変えていきたかった。
「ファッションは生活の中心にある自己表現。だから展示会は生活の周辺に存在しているアートや食まで、すべてを見せる場であるべき」と考えたのです。
今秋、名称を「rooms EXPERIENCE」に変えて再構築に向かうことになったきっかけは、これまで会場にしてきた国立代々木競技場第一体育館が東京オリンピックに向けた改修工事で使用できなくなったため。
第一体育館は、会場に入ると展示場全体を上から見渡せるという演出が評判でしたが、「ハコを変えるなら、同じことはやらない」と。ガラッと印象を変えるため、次の会場に選んだのは五反田のTOCビル。
雑多な店が集まる猥雑な雰囲気や羽田空港に近いアクセスのよさに魅力を感じています。
roomsは、私の経験と肌感覚をもとにつくっています。前回は「エシカル(倫理的)」をテーマに、環境保全や社会貢献に関するコーナーを設置。“モノ”や“ブランド”より、その背景にある“考え方”や“心の満足”に価値を感じる人たちが増えたという感覚があったからです。
しかし、海外の消費レベルはさらに進んでいます。
昨年訪れたアメリカではネット時代に逆行するように、本や紙の価値と、それを守る“意義”が見直されていました。
書店が写真家を抱え、彼らの写真集やポスターを展示販売するイベントに人々が行列をなしていたのです。
私はこのような現象を自分の目で見て、時代の流れから次に求められる価値を見つけ、新たな構想につなげています。
次回の「rooms EXPERIENCE」のコンセプトは、「五感、共感、空間」。
紙をアートの概念でとらえ、触れて楽しむ「ペーパーエキシビション」、地場産業を含む技術や文化を、その土地の背景も含めて紹介する「メイドインドット」、「躍動感・雑多・混沌・劣悪」をコンセプトとした物販コーナー「マーケット」など、5つのエリアを展開する予定です。
私は、ファッションを衰退させないためには、ファッションのみを提案していてはダメだと考えています。
生活や趣味など、「自分が価値を感じるものに“無駄な”お金を使うこと」は、喜びや楽しみであり、自己表現であり、人生を豊かにしてくれます。
そして、ファッションはその中心となるものだと、伝えていくことが大事です。
また、私はデザイナーの作品に注文をつけて、売れる商品に変えるということは絶対にしません。
デザイナーはブレることなく、好きなものをつくるべき。コアなものこそがファンをつかみ、それが次の時代のマスにつながるからです。
ですからroomsでは、デザイナーなど出展者のことだけを考えて運営しています。
来場者アンケートは一切取らないし、企業が出展する場合は必ずオーディションをして厳選する。
デザイナーのクリエイションを守るためにブレない強さを持ち続けてきたからこそ、roomsはここまで大きな展示会に成長できたと思っています。
ファッションをPRする方法は、まだまだいくらでもあるはず。
「この方法でしか売れない」という概念を捨て、感じたことから学び、ブレずに振り切る潔さを持つ。
そうやって新たな価値を発信していく人が増えれば、未来の日本のファッションシーンは必ず盛り上がっていくと思います。