業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
小杉 早苗
愛知県生まれ。文化服装学院デザイン科卒業。文化服装学院専任教授、学院長補佐を経て、2003年、文化ファッションビジネススクール校長に就任。現在は、学校法人文化学園理事、文化服装学院学院長、文化ファッション大学院大学ファッションビジネス研究科科長を兼務。経済産業省構造改革審議会審議委員、ファッションビジネス学会会員なども歴任。
今の日本のファッション界に必要なのは、ファッションをビジネスとしてけん引できる人材です。例えば、世界的ブランドであるシャネル。アパレルは、シャネルグループの中で宝飾品や化粧品、香水、広報など、幅広く展開するブランド事業の一部であり、経営者であるシャール・コラス氏が、ビジネス全体を統括しています。日本は、そのような企業がまだまだ少ないのが現状です。
国内人口はこれから減少していくので、今後、日本のファッション企業は海外に活路を見いださなければなりません。そうなると、語学力はもちろん、対象国の文化や体型、サイズの違いなどを踏まえた販売戦略が必要となります。そういったファッションビジネスを構築できる人物が、優秀なデザイナーと連携していく――これが、生き残っていけるファッションビジネスの形です。
とはいえ、欧米流のビジネスが全て正しく、日本流が間違っているわけではありません。欧米では、デザイナーの評判が落ちると、一つの道具のようにすぐに交代させられます。また、分業化が進んでいるので、パターンすらわかっていないディレクターも珍しくありません。反面、日本は、デザイナーを中心としたチームがしっかり構築されたブランドが多く、同じ感覚を共有し、「いいものをつくる」という情熱を持っています。デザイナーは、チームワークを大切にしながらも、自分のコアを持ち続ける、“和して流れず”の精神が大切ですし、それが日本のブランドの良い部分ではないでしょうか。
例えば「ヨウジヤマモト」は、まさに 強いカリスマ性を持ったクリエイターと、ビジネスをけん引する人の両輪が協同して成功したブランドと言えますが、実は、自分の意志を通す服をつくる山本耀司さんと、売れる服をつくってほしい林五一さんは、会社設立当時から常にぶつかり合っていたそうです。しかし、林さんは、優れた才能を持った耀司さんに惚れ込んでいましたし、二人ともファッションに対する強い情熱を持っていましたので、喧嘩しながらもビジネスとして大きく成長させることができたのです。
私は、デザインや製造のことも理解したうえで、ファッションを大きなビジネスとしてとらえ、経営を背負っていけるファッションビジネスパーソンの育成を目指し、BFGU(文化ファッション大学院大学)を設立しました。まだ創立10年目ですが、本学で学んだ人材が、日本のファッションビジネスを進化させる原動力になると信じています。
今、日本のファッション教育のあり方やクリエイター不足を憂える声もありますが、教育現場では、日本が世界から非常に注目されていることを実感しています。日本でファッションを学ぼうと、今年も文化学園に42カ国の留学生が集まっていますし、私自身も世界中から講演を依頼されています。世界から見れば、日本のファッション界は今も魅力的なのです。確かに日本人の学生数は減っていますが、そもそも8000人近い在校生の中で有名デザイナーになれるのは一握り。重要なのは、学びながら競い合い、勝ち残っていくことです。
勝ち残るために大切なのは、感覚と感性を磨き、時代をつかむ力をつけること。また、何でも吸収する素直な姿勢も大切だと思います。40年も前に世界で認められた三宅一生、川久保玲、山本耀司の御三家に共通していたのは、時代をつかむ力に加えて深い知性と教養を備えていたこと。今後のファッション教育では、技術はもちろんのこと、歴史や人間工学、経済などの教養を養う全人教育も必要であると考えています。