業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
コセキツバサ小関翼
1982年生 まれ。東京大学大学院情報 学環・学際情報学府社会情報学コースで法律とインター ネットを学ぶ。修士課程修了後、三菱東京UFJ銀行に入行。その後、ロイズTSB銀行、アマゾンジャパン、クラウ ドクレジットを経て、2015年3 月、STYLER株式会社を設立。趣味はスケートボード、読 書、映画鑑賞、料理、ファッ ション、サッカー。
「春らしいベージュのコートが欲しい」。ユーザーが探している服の情報をネット上に書き込むと、様々なショップのスタッフがおすすめの服の写真とコメントを添えて提案、ユーザーは複数の提案の中から選んでネットで購入、または実際に店舗へ足を運んで購入 する――
そんな新たな購買動線を店舗に提供してい るのがO2O(On l i ne to Off l i ne)サービス「STYLER」である。2015年6月に20ブランドから
β版をローンチし、今では国内10都市158のショップが参加。IT技術を駆使しながら、顧客と店舗、そして情報とファッションを結びつける「STYLER」は、未来の購買体験にどのような価値を生み出そうとしているのだろうか?
僕はファッションが大好きで、こだわりも強いですが、それほどファッションに興味がない人でも、自分が好きな色やサイズ、着心地などは気にしていますよね。ファッ ション業界は、まだまだこうした層のニーズを取りこぼしていると思います。そんなユーザー層に“新たな購買体 験”を提案することで市場が盛り上がる可能性があると考え、「STYLER」を立ち上げました。
ユーザーの要望にショップスタッフがおすすめ商品情報を書き込むのですが、スタッフが接客の空き時間を有効活用して新規顧客を店舗へ誘導できる、と導入が進んでいます。例えば「ジャーナルスタンダード渋谷店」では、昨年9 ~10月の1カ月間でSTYLERを介した来客数が196人、1人あたりの平均購入金額は2万円を超えました。また、ユーザーの書き込みから、世の中のニーズをリ アルタイムで把握して的確な分析ができるため、「購入してもらいやすくなった」「売り上げが増えてモチベーションが高まった」など、様々な効果が生まれています。
僕はもともと金融業界で働いていた人間です。その 後、日本に進出した頃のアマゾンに転職し、Eコマースの準備を担当しました。いずれはITの世界で独立したいと考える中で、アマゾンのような検索型ユーザーインターフェースが苦手とする分野に着目しました。たとえば、本や日用品のような商品は、ネット上で自ら検索ワードを入 力して欲しいものが簡単に見つかります。まさにアマゾンが得意とする分野です。ですが、服や不動産、旅行などライフスタイル系の分野は、検索ワードを言語化することは容易ではなく、ネットで欲しいものにたどり着くのが本当に難しい。ファッション業界を見ると、2014年の業界全体の売上高18兆円のうちネットでの売上高はわずか10%未満で、92.2%は実店舗です。これは「実物を見てから買いたい」「店員の話を聞いて決めたい」というオフラインの接点への欲求があるから。また、ファッションのように答えが1つではない中で何かを決めるには、人との「コミュニケーション」が特に大切になってきます。こういったオフラインの購買体験をより心地よいものにできないかと考え、「未来の購買体験」をWebで実現するために生まれ たのがSTYLERです。
「コミュニケーション」をサービスとしてかたちにすることは、特にアジア圏で大きな可能性があると考えています。アジアは購買行動が欧米と大きく異なり、顧客と店員がコミュニケーションをして物を買う文化が伝統的に根付 いているからです。STYLERではアジアへの展開も視野に入れており、手始めとして、今年からベトナムで不動産販売のテストマーケティングをスタートする予定です。
オンラインコマースはアマゾンに見られるようにほぼ完成されてきました。ですが、ライフスタイルを軸としたオフラインの購買体験はまだまだ刷新の余地があります。ファッション業界でいえば、ブランド側がトレンドの服をマーケットに提供するという今の仕組みを、ユーザー が欲しい服を探しにいけるように変えたい。STYLERによってファッション業界の購買・販売構造を変え、ひいては様々なジャンルでO2O(Online to Offline)の新しい購買体験を広げていきたいと考えています。