業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
河野 秀和
1975年熊本県生まれ。メーカー、外資系金融機関を経て、独学で経営学を学ぶ。2013年に米サンフランシスコ・シリコンバレーで最先端のIT・テクノロジーを導入したサービスやシステムの開発等を学び、ベンチャー企業を取り巻く法律などの見識も高める。帰国後、14年に衣服生産のプラットフォーム「シタテル株式会社」を設立。日経スペシャル『ガイアの夜明け』に2度出演するなどメディアでも話題に。
FinTech(金融×技術)やEdTech(教育×技術)など、IT技術を活用した新サービスが、様々な業界で変革を起こしている。そして今アパレル業界では、ITによるシタテルの“新しい流通革命”が話題だ。創業から2年で、全国130の縫製工場と提携。縫製発注をするブランド・企業の登録数は2000社を超えた。経営支援を本業としていた河野氏が、シタテルに懸けるものとは?
熊本生まれの熊本育ち。これまで地元の小売店や縫製工場の経営支援に関わっていました。もともと熊本はファッションの街。数多くある縫製工場は、繁忙期の波や海外生産の潮流の中で生き残りをかけた模索をしています。メーカー側の小ロット・短納期を求める今の流れをどうしたら叶えられるのか。また、こういったアパレル生産のインフラを、どうしたらもっと有効に活用できるか。調べていくと、工場でモノができてから消費者に届くまで、二次流通も含め複雑怪奇な多重構造になっていました。しかし流通改革のトレンドでよくある「中間をカットする」という考え方よりも、放射線状に効率良く繋ぐことでそれぞれのプレイヤーがリファインするということが見え、ブランドや事業会社といったユーザーと提携工場などのサプライヤーをよりシームレスに繋いでいく「シタテル」をローンチしました。各縫製工場の規模、得意分野、空き状況などデータベースを管理・蓄積し、的確にユーザーの条件に合った工場に発注するという仕組みです。これまで、登録している2000社のうち約1000社がシタテルで「場所と時間を選ばず」何らかの衣服の生産を依頼しています。
工場の生産効率を上げ、小ロット、短納期というメーカー側の期待に応えるなかで、課題となったのが、「誰が品質に責任を持つのか」ということ。工場は生産、ブランドは販売やマーケティングが本来の仕事です。納品物の品質の責任は、その間に立つシタテルが担ってこそサービスがうまくいく。そのニーズに応えるため、工場のデータベースの精度と、品質チェックに力を入れています。また、「スマート工場プロジェクト」と称して、効率的な生産管理システム開発支援を工場に提案し、ITで工場の状況がリアルタイムで見える仕組みづくりも進行しています。工場は生産効率があがり、メーカー側も工場の空き状況などの可視化によって発注がしやすくなります。
こういった連携は、やはり工場の経営者の危機感や、変わらなければいけないという思いがあってこそ。単に「日本の縫製工場を守る」というスタンスで正義を掲げるのは簡単ですが、「守る」というマインドやサプライヤーの目線では、決して今のマーケットに対応できないと感じています。まずはそこに関わる人たちが今後どうやってマーケット(多種多様な人々)に寄り添えるか、生き残っていけるかという現実をしっかり見ていくことが大切です。
現在シタテルでは主に工場のデータベース化といったハード面に力を入れていますが、こういったハードの整備は、人間の衣食住に必要な水やガスといったインフラに近いイメージを持っています。その先は、デザイナーズバンクのようなソフト面の整備が必要になってくるかもしれません。いずれにしても、これまで使われてきた「OEM・ODM・アパレル」といった既存の言葉に捉われず、「いま」に寄り添う衣服生産の新しい仕組みを目指したい。そしてクリエイティビティが弱いといわれる日本のクリエイターがアイデアを醸成し、自由にかたちにできる土壌をつくり出したい。業界を分析すると、これはファッション業界の外にいる人間にしかできないと感じています。
データドリブンな事業基盤になっていますが、目指すのは、シンプルに「衣服のGoogle」のような存在。衣服をつくりたいと思ったらシタテルといわれるようなオープンマインドな事業をつくりあげたいですね。