業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
飯嶋 薫
1946年、神奈川県生まれ。青山学院大学法学部を卒業後、株式会社馬里邑(まりむら)に入社し、宣伝を担当。出向先の株式会社アイマリオの事業を拡大し、98年、合併した株式会社三愛の専務取締役に就任。再編で誕生した小売会社の代表取締役社長として、大規模なリストラを敢行。2001年、三愛グループを退任し、株式会社R・B・Kを設立。経営アドバイス、マーケティング、顧客満足度調査、ネットワークづくり、プロデュースなどを事業の柱に活動。日本ショッピングセンター協会理事。
私は、大学を卒業し、社会人になって以降、ずっとファッション業界に身を置いてきました。そして、リテールビジネス研究所創業から14年間、青山や原宿、代官山界隈を歩き回り、国内外のトレンドを発信する『RBKマーケットリポート』を毎月発行しています。いつの時代も新しい流行は街から生まれます。自分で徹底的に歩き、プロの目で街の動きを捉えることが、リアルなトレンドを伝える基本だと常に考えてきました。
最近感じているのは、街の主役がファッションではなくなってきたということ。人が並ぶ店は、パンケーキやかき氷など、食の店が主。若者たちの最大関心事が、ファッションから食に移行しているのでしょう。ファストファッションをはじめとしてアパレル全体に翳りが見え始めています。こうした傾向は、業界人である私からすると、とても残念。ファッションにはもっと人を幸せにできる可能性がある。もちろん、街の主役に返り咲くために、いくつかの課題があるのも確かです。
その一つは、ブランドの伝道師ともいえる販売員の不足。全国のデベロッパーやアパレル企業が集まる「SC(ショッピングセンター)ビジネスフェア」の会場でも、「販売員が採用できない」という相談をよく受けます。商品価値を決めるのは、環境×商品×人です。同じ品揃えでも、店長によって売り上げは3割変わってくる。販売員の役割は、それほど重要なのです。
しかし、ファッションに興味のある学生は多いものの、就職先としてファション業界を選ぶ学生は少ない。今まさに、ファッション業界をいかにして魅力的にするか、いかに魅力ある企業を増やすか――それが問われているのです。
もう一つの課題は、日本のクリエイションをどう育てていくかということ。現在、アパレル業界は、ファストファッションのような“コモディティ”と、“本物志向”の二極化が進んでいるようです。実際に、表参道一帯では、「ステラ・マッカートニー」や「メゾンキツネ」など、本物のクリエイションの店舗が集まり出し、そういった本物を理解する顧客が増えつつあります。「サカイ」「アンリアレイジ」など、卓越したクリエイション力を持つ日本発のブランドが支持され始めたのも、その表れだといえます。のような世界に通用する日本のデザイナーの育成が、これからのファッション業界の活路になるはずです。
ですが、デザイナーは才能があれば勝手に育つ、というものではありません。クリエイションに必要な環境と資金がなければ育たない。クールジャパン戦略は、そういった本物のクリエイションを目指す人たちに向けても積極的に投資すべきだと思います。
また、企業もデザイナーの人材教育やネットワーク構築にかけるコストを増やす努力をしてほしい。新しいものは、やはり人との出会いから生まれるものであり、世界を視野に入れた優秀な人材とのネットワークづくりが大切なのです。
一方で、「パルコ」が個人のクリエイターをバックアップするインキュベーション事業として、クラウドファンディング・サービス「Booster」を始動するなど、クリエイションの世界をサポートする新しい動きも生まれています。
ファッションを街の主役として復活させるために、できることはまだまだたくさんある。業界に身を置く一人ひとりがその可能性を認識し、実現に向けて動きだせば、日本のファッション業界の未来は、必ず輝きを取り戻せると信じています。