業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
丸林 耕太郎
1979年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学商学部在学中から、プロのDJとして国内外で活動。2004年、新卒で大手インターネット広告代理店に入社。4年後に退社して起業。
14年には文化服装学院で1年間講師を務め、インターネットをファッションビジネスに生かす手法を講義。
大学時代からプロとして音楽活動に打ち込んできた丸林氏が、20歳の時に感じた怒りにも似た違和感。それは、才能があるにもかかわらず、好きな音楽やアートだけでは生計を立てられない人たちが多すぎることだった。
その頃から抱き続けてきた「才能あるクリエイターが評価される、フェアな世の中に変えたい」という思いと起業のタイミングが合致し、2010年に誕生したのがCreemaである。
「クリエイターの賛同は得られましたが、難しかったのは買い手を増やすこと。当時の日本には、まだ〝個人クリエイターの作品を買う〞というカルチャー自体がなく、CtoCマーケットプレイスすら一般的ではない状況だったので、スタートから数年間はかなり苦戦しました」
そこで、まず取り組んだのがインターネットサービスとしての機能を徹底的に改善すること。
そして同時に、日本ではまだ顕在化していなかった、ブランド・メーカー品ではない「個人クリエイターの作品を買う」というカルチャーを広めることにも注力した。
「そのカルチャーが育たないと、創作品のCtoCマーケットプレイスは成立しません。そこで、カル
チャーをつくるにはリアルの体験が有効だと考え、ハンドメイド作品を売買できるイベントを精力的に開催。リアルの体験がインターネット取引にどう連動しているかは今も未知数ですが、カルチャーの醸成には十分役立ちました」
低迷期を抜け出してからの業績は、毎年400%増。今や約11万人のクリエイターが、400万点を超えるハンドメイドの作品を出品し、アプリのダウンロード数は500万件超という日本最大級のハンドメイドマーケットプレイスに成長した。
Creemaの特徴は、出品者の大半がプロやプロを目指している人たちであること。アート作品も多く、クオリティレベルも高い。また、16年にはCreema中国語版の提供をスタートし、台湾・香港へ進出。
出品者は、作品をクロスボーダーで販売することもできる。
「Creemaの登場によって、きちんと評価されるべき才能や努力など、〝個〞の可能性に光が当たるようになった。才能が正当に評価され、好きな仕事で食べていくことができるのは、とてもポジティブなこと。クリエイターの生き方に、多様な選択肢を提供できたのではないかと思っています」
実際、自分の個人サイトで2万円だった月商がCreemaに出品するようになって100万円に達した作家、Creemaで実績を積み、起業した人など、数えきれないほど多くの成功事例が届いている。
今夏5回目となる「ハンドメイドインジャパンフェス」には約5万人が、3回目となる昨冬の「クリーマクラフトパーティー」には約2万人が来場するなど、イベントの規模と人気も圧倒的だ。
「人気ブランドの服をワンクリックで手早く買うBtoCと違って、Creemaには売り手と買い手のウェットなコミュニケーションがある。イベントは、そんな作り手と買い手が直接話せるハッピーな場となっています。北海道と沖縄の人、東京と台湾の人がCreemaで出会い、感性でつながっていく――Creemaは、人と人との物理的距離をなくし、心の距離を近づけているのです」
クリエイターが輝ける社会を目指し奔走する丸林氏。
「Creemaで生計が立つようになったファッションデザイナーも少なくありません。価値観が多様化しているなか、自己実現の形も変化してきています。Creemaが自分らしい自己実現の応援になったら嬉しいですね」
また、Creemaを通じ、消費者の価値観の変化を感じている。
「楽しくて有意義なお金の使い方を考える消費者が増えていると思います。〝自分にいいモノは何か〞に対する意識が高い。ファッションでいえば、安くて機能的・合理的な服を好むファストファッション派、ブランドの世界観を重視するハイファッション派、そして、ブランドに関係なく自分が共感できる服をクリエイターから買いたいというオルタナティブ派、というように、消費者の三極化が進んでいるような気がします」
将来的には、Creemaに参加する〝個〞の集合体が大きな経済圏になっていくことを目指す。
「個が既存の流通を介さず直接取引することで、個の経済はよりよく回っていく。個の才能や努力が公平に評価されるようになる。そんなフェアでオルタナティブな経済圏を確立したい。クリエイターと生活者に新たな価値を示すことで、より楽しいハッピーな世界をつくりたいですね」