業界で活躍する方々に、ファッションに関する様々な意見を聞くインタビュー
矢部 秀卓
1978年、埼玉県生まれ。2001年、信州大学経済学部卒業後、人材紹介会社に入社し、営業などを経験。04年、NHNJapan株式会社に入社、人事、経営企画業務に従事。08年より、モバイル、PCなどハンゲームの運営全般に携わった後、EC分野の関連会社にてEC事業管理に従事。16年2月、現社に転職し、動画コマース事業の立ち上げなどに携わる。
C Channel株式会社が運営する『C CHANNEL』は、女性のための動画ファッションマガジン。ヘアアレンジ、メイク、料理など、女の子の知りたい解決策、ハウツー情報をわかりやすい動画で紹介する。
「C CHANNELの〝C〞はコミュニケーションのC。動画を通じて、ユーザーとコミュニケーションし、よりよいメディアにしていきたいという思いを込めています」
C CHANNELがスタートしたのは、2015年4月。
「これからは、縦型動画の時代だ」と確信してリリースしたものの、当初は投稿者が遊びに出かけたスポットなどを紹介するブログ動画が中心。再生数は、期待していたほど伸びなかった。
そこで、当時世界的に注目されつつあったハウツー動画に方向転換したところ、アクセスがみるみる増え
てきた。
「C CHANNELの特徴は、内容を1分程度にまとめて縦型動画で発信していること。縦型にしたのは、スマホの形状に合わせた見やすさと、女性の全身や寄りの映像を見せるのに適しているから。また、1分を過ぎると離脱者が増えるということがわかったので、ユーザーが知りたい情報を端的に伝えることにしました」
もう一つの特徴は、クリッパーと呼ばれる求心力のある人たちが、自ら撮影・発信していること。
「クリッパーは、雑誌でいう読者モデルと同じような存在です。インフルエンサーに加え、キャスティング事業を行う関連会社からのスカウトや一般の人たちなど、約500人のクリッパーを抱えています」
本社内には、クリッパーが自由に使える、ヘアメイク、キッチンなど8つのオープンスタジオを用意し、撮影環境を整える。
また、社員による自社制作動画も発信している。「社員が自社スタジオで制作するので、早く安く発信できるのが利点。社内にノウハウが蓄積され、品質向上にも役立っています」
毎月400本以上制作している動画は、自社メディアに加えて、ラインやフェイスブック、インスタグラムなどのSNSでも展開し、国内のF1層約1000万人にリーチ。
月間の平均再生数は、国内で3億5000万回を超えるという。
さらに、中国、韓国、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどアジア10カ国に進出するなど、グローバル展開にも力を入れている。
「海外展開の初期段階は、日本の動画に翻訳を加えてフェイスブックで発信。認知度が高まってきたところで、現地のパートナー会社に運営を任せていきます」
全世界のフォロワーは、フェイスブックが約1000万人、ラインが約500万人、インスタグラム約120万人、ツイッター約35万人。17年1月には、全世界で月間再生数6億6000万回を記録した
矢部氏は次のビジネスの柱を目指し、16年夏から動画コマースを手掛けている。
12月から配信をスタートし、現在は毎月約45商品の動画を発信。公式クリッパーやインフルエンサーが商品を紹介し、販売につなげる。商品によって、ネイリストやエステティシャン、美容師などのプロも動画に起用する。
「C CHANNELが持つメディア力を武器に、一定のファンを持つクリッパーや信頼性の高いプロが商品情報を伝えることで、ユーザーの購買障壁を下げることができる。ここが、強みだと考えています」
目標は、テレビ通販に代わる販売チャネルとなること。時間や場所を選ばず手軽にアプローチできる、スマホならではの特徴を最大限に生かしていく計画だ。
17年7月末時点での月商は、事業開始時の約20倍と、手応えは上々。
中でも好調なのが、プチプラのあやさん、モデルの田中里奈さんをディレクターに迎えた動画コマースで、どちらも月商約1000万円のヒットとなった。
今のトレンドに合った人を動画コマースに起用することが、商機の鍵を握る。
「情報があふれている今、女性たちは自分に似合うものや欲しいものを〝肌感〞として持っています。インターネットやSNSを巡回し、自分と同じセンスや共感できるライフスタイルを実践している人をフォローし、その周辺にある商品に興味を抱いていく。動画コマースを、ウィンドウショッピング感覚で楽しんでいるのだと思います」
デジタル技術の進化やユーザーの嗜好の変化が著しい昨今、ヒット商品を生むのは難しいが、「とにかく、チャレンジしてみるしかない」と矢部氏は断言する。
「まず発信して反応を見る。いい商品、面白い商品は再生数が増えるし、再生数が増えれば、売り上げはついてくる。やってみてダメなら、見せ方を変えればいい」
この仕事を通して、矢部氏はファッションに対するユーザーの価値観の変化を実感している。
「女性たちが求めているのは、自分と同じテイストを持つ人が紹介する、より良質で安価なもの。プチプラのあやさんの人気ぶりを見てもわかるように、重要なのはコスパです。安いだけでは恥ずかしいけれど、そこに高く・良く見せることができるポイントがあれば、『コスパがいい』と判断され、購入に至ってくれるのです」
また、以前は服を所有することで満足を得ていた女性たちが、リサイクルやシェアリングも抵抗なく活用するようになってきている点にも注目している。
「イマドキの女性たちにとって重要なのは、〝今をどう着飾るか〞。従来のように長く着られる服ではなく、その時によく見える服へと価値や嗜好が変わってきているのではないでしょうか」
商品をドンと出して、「これ、いいでしょ!?」というアプローチではなく、商品を見せながら「これ、どう思う?」と一緒に考えてもらい、共感を得ていく手法だ。
「クリッパーと情報交換する中で、ユーザーとクリッパーがインタラクティブに会話していくほうが、ファンが増えていくということがわかってきたからです」
さらに、動画メディアの双方向性を生かした商品開発もスタート。コスメ、美容機器、アパレルなどのメーカーと共同開発した商品の販売から進めていく計画だ。
「動画メディアで『これどう思う?』と意見を求め、ユーザーの声を反映させながら商品開発していけば、ヒットの確率は高まるはず。
近い将来、動画コマースのコミュニケーションを核にモノづくりしていくことが、世の中の標準になっていくかもしれません」と、矢部氏は新たな商品開発方法に自信をのぞかせる。
「人気クリッパーを中心に、同じ嗜好を持つコミュニティが生まれ、『こういうものがあったらいいね』とコミュニケーションが深まっていく。そして、当社が生産をフォローして商品化していく。従来のように企業がトレンドを押し付けるのではなく、消費者主導で商品がつくられるというように、モノづくりの順序が変わっていくと考えています。『欲しいものを自分たちでつくりたい』という女性の夢をかなえる場をC Channelが提供していきたい」
最後に、代表取締役社長の森川氏が、C Channelの将来についてこう語ってくれた。
「これからは、若い人たちがもっと動画を通じてコミュニケーションする時代になる。そのための新しいプラットフォームとしてCCHANNELを育て、ここから新しいスターや文化が生まれたら素晴らしいと思います。10年以内には、世界中の若者が参加し、世界の新しいトレンドが投稿されるプラットフォームにしたいですね」
デジタルネイティブが主役の時代となり、コミュニケーションの形が次々と進化していく中、その変化に寄り添い続ける。その姿勢が、C Channelの新しいサービスを生み出す源泉となっている。