ブランドを作り上げたメンバーが語るブランドへの思いとその成功の軌跡
株式会社ジョンブル
〒711-0931
岡山県倉敷市児島赤崎1-11-3
1952年創業の日本屈指のジーンズメーカー。
「一流のものづくりをお客さまの生活の中に届ける」というビジョンを掲げ、時代を越えて愛され続けるプロダクトを提案。
リアリティとクオリティを意識したものづくりをベースに、得意のワークウェアからドレスラインまで、常に新しい価値観を発信している。
ジーンズ、カバーオールなどのアイテムに代表されるワークウェアを主に手がけ、約60年の歴史を紡いできたジョンブル。
岡山県に本社と自社工場を構え、卸のほか、全国14店舗の直営店でオリジナル商品も展開する。歴史と伝統を踏襲しながら、常に時代が求めるファッションの新しい試みに挑んできた。このジョンブルから、今秋、これまでの黒いブランドタグを白に変え、“白タグ”という愛称がつけられた直営店限定の新ラインが誕生した。これまでワークウェアを軸に、ヴィンテージ、ストリート、モダン、ドレスというカテゴリーを表現してきたジョンブルが、新ラインで掲げたのが“ワークの手法でつくるトラッド”という概念だ。
新ラインを統括する中村里美は、外部ブレーンという立場で新体制の立ち上げから参画。中村は、コレクションブランドでメンズファッションのパタンナーとして26年間のキャリアを積み、独立後、パターンメイキングスタジオ「Bricolage」を設立。メンズのドレス、テーラードの世界を究めた人物だ。その知識と技術で新ラインのパターン製作、生産、デザイン企画といった側面をサポートする。中村は「ジーンズを手掛けてきたファクトリーブランドだからこそ叶えられる可能性を探った」と言う。
「ジーンズの厚く固い生地を縫う縫製技術と、テーラリングの技を駆使したパターンメイキングを掛け合わせることで、世の中にない新しい価値を生み出したかったんです」
Gジャンのように袖と身頃の脇を一気に縫い上げる手法を取り入れたジャケットや、ジーンズの巻き縫いを配したトレンチコートなど、ワークウェアの手法でモダンなエッセンスを巧みに表現した新しいかたちが“白タグ”アイテムの特徴だ。パターンメイキングそのものをデザインと捉えている中村だが、立ち上げ当初は、かたちになるのかもわからない空想のものだったと振り返る。「ジョンブルの最大の魅力は自社工場を備えていること。これを生かさない手はないと思いました。ですが、自分にとっても工場にとっても新しい挑戦が多く、初めは壁ばかり。思い描くものをかたちにするために岡山の工場へ何度も足を運び、縫い場のスタッフに難しいオーダーをして、かなり嫌がられました(笑)。でもその都度、みんなが納得し、挑戦してくれて、全員が不可能だと思っていたことも、知恵を出し合って解決していったんですよ」
新たな価値をプロダクトとして具現化するのが、製作、生産の工程だ。東京パターン室でパタンナーを務める岩田里枝は、中村が構成したストーリーやコンセプトを正確に把握したうえで、トワル組みやサンプルの管理、縫製出しのための仕様書作成から、店舗に届けるまでの全工程管理を担う。
「すべての工程に責任感を持って、あきらめない。その誇りがあってはじめて縫い場、販売スタッフ、ひいてはお客さまに価値が伝わるのだと思います。作業の一工程を担当するのではなく、スタッフ全員で“白タグ”をかたちにしている実感と手応えを強く感じています」
決定したデザインを工場で忠実に再現するための架け橋を担っているのが、企画部の石井洋子だ。東京のパターン室と岡山の工場が離れている分、生産管理では工場への正確な縫製指示が必須となる。“白タグ”はコートやジャケットなどアウターが多く、得意とするワークウェアとはつくり方が異なるため、伝え方も難しかったそうだ。
「ワークウェアの製造は、通常アイロンを使うことは少なく、最終仕上げに洗いの工程が入ります。ですが、テーラードの“白タグ”はアイロン工程を経て、未洗いで製品になる。ジーンズの縫製手法を取り入れたアイテムとはいえ、これまでと異なる工程が多いので、生産に入る前にスタッフの意識を変えるためのサンプル展示会を行い、仕上がりを明確にイメージしてもらいました」
スタッフの思いと誇りが詰まった服を、店頭でお客さまの手元へ届けるのが販売スタッフの役目だ。JohnbullPrivate labo 原宿店の髙橋友樹は、“白タグ”にかける思いをこう語る。
「コンセプチュアルなデザインの服は、着こなすのが難しいものも多いのですが、“白タグ”は街に馴染むデザイン。既存アイテムとも合わせやすく、ジョンブルの新しい幹として、ファッションの楽しみや可能性を広げてくれる存在です」
スタートしてからの評判も上々で、ジーンズを購入し、翌日に白タグのパンツ、1週間後には白タグのモッズコートを購入したお客さまもいたのだそう。
「これまでにない着心地や、新しいコーディネートの楽しさを実感したうえで足を運んでくださったようです。立体的につくられた服がボディ映えするようなディスプレイ、着こなしの提案など、お客さまにより興味を抱いていただける接客を心がけています」
中村はこのスタッフ一人ひとりの姿勢がジョンブルの強みだと語る。
「自社工場で生産し、直営店で販売ができ、すべてのスタッフが目標や感性を共有できる恵まれた環境。だからこそこれまでにない新しいラインが生み出せたのだと思います」
“白タグ”がリリースされるまでの過程で、スタッフたちの意識も変わっていった。生みの親ともいえる中村もそのひとり。新ラインをゼロからつくり上げる中で、大きな気づきがあったという。
「当初、モードの復興、モードのルネッサンスを念頭に置いていましたが、最終的に大事だと気づいたのはコミュニケーションです。デザイナーがメインに立つ服づくりもありますが、この仕事から、つくる人、販売する人、着る人、すべての人たちのかかわりから生み出される服づくりの素晴らしさを改めて学びました。全製作工程の中で、細部にわたって多くの仲間の手が入り、全員の思いが込められた服――その価値を感じたお客さまに手に取っていただいて、はじめてファッションデザインは完結するもの。私たちの服から、たくさんの会話が生まれることが私の夢です」
来シーズンの春夏コレクションのテーマは「バックパッカークラシック」。クラシックサファリをモチーフにデザインやラインナップの構想を練っている最中だ。ファクトリーブランドの強みを存分に生かし、他には決して真似のできないものづくりの挑戦は続いている。
Bricolage代表 パタンナー
新ライン立ち上げのプロセスの中、縫製の現場へ難しいオーダーを出すために岡山の自社工場へ何度も足を運んだ。
「ジョンブルの工場には、二重縫い、裏地の巻き縫いなど、日本が誇るジーンズファクトリーならではの一流の縫製技術があります。これこそが他社にはない、素晴らしい強みだと思っています」
メンズウェアのパタンナーとして様々なブランドで26年間勤務。
コム デ ギャルソンのチーフパタンナーを務めた後に独立し、2013年、パターンメイキングスタジオ「Bricolage」設立。
14年秋冬より、ジョンブルのパターンメイキングに携わり、15年秋冬にリリースされた“白タグ”直営店限定ラインを統括する。
“白タグ”を担当してから、それまでの一連の作業の中の決められた範囲内での取り組みとは異なり、服づくりをトータルでイメージして仕事に取り組むようになった。
「中村さんのパターンはシンプルな線なのに、トワルに組み立てると立体的になって体も動かしやすいんですよ。縫製のことまで考えつくしたパターンづくりに刺激を受けています。私自身も平面的ではなく、360度、どの角度から見てもかっこいい服づくりが目標です」
東京パターン室 パタンナー
2006年入社。岡山本社でパタンナーとして勤務後、13年の東京パターン室開設を機に異動。
ウィメンズのパターンをメインとしながら、今シーズンより、直営店限定ラインにも携わる。
パターンや縫製のクオリティに加え、コーディネートの幅の広さも新ラインの魅力。ブランドのアイコン的存在を担う店舗スタッフの役割も大きい。
「ブランディング戦略をよく理解したうえで、本質的で上質な接客をしていきたい。“白タグ”の価値観を体現する着こなしを工夫するなど、プロの販売スタッフとして店頭に立つことを、より意識していきたい」
Johnbull Private labo 原宿店 販売員
2011年入社。
初年度よりフラッグシップショップであるJ o h n b u l lPrivate labo原宿店に勤務。
全販売員の中でもトップクラスの営業実績を誇る。
テーラリングの要素も強い“白タグ”。従来のワークウェアとは異なる生産工程を実現することは、石井さんにとって試行錯誤の連続だった。
「当初はとまどいもありましたが、納得いく仕上がりになっています。工場は若手の職人が多く、活気のある現場。これまでにない服づくりに挑戦することで、新しいジョンブルの技術をみんなで培っていきたい。工場のスタッフの思いが、店頭でお客さまに伝わることを願っています」
企画部製品開発室 コントローラー
1991年入社。
商品企画、サンプル縫製、生産管理などの現場に様々な立場で携わる。
直営店限定ラインにおいても、企画と生産の橋渡し、サンプル製作、縫製指導など、包括的なポジションでサポートしている。