ブランドを作り上げたメンバーが語るブランドへの思いとその成功の軌跡
アダストリアは、17もの自社ブランドを展開するマルチブランドカンパニーだ。
主力の一つである「グローバルワーク」は、ブランド力向上を進めながら、国内で192店舗まで拡大。
さらに世界展開も本格化する。
〝劇的な急成長〞といっていいだろう。グローバルワークを展開する株式会社アダストリアは、競合ひしめくアパレル業界において、過去10年で売り上げ20倍という快進撃を続けている。
1990年代は仕入れ商品の販売が中心、2000年代はODM/OEM型のビジネスモデルを採用するが、競合との差別化に苦慮した。
しかし10年、自ら企画・生産から小売りまで手がけるSPA(製造小売業)へと舵を切ることで、〝オリジナリティ〞の追求に注力。その後の急成長を後押しする決断となった。
「GLOBAL WORK(グローバルワーク)」は、「ローリーズファーム」や「ニコアンド」などと並ぶ同社の主力ブランドの一つだ。20〜30代の男女をターゲットに、ファッション性と機能性、買いやすい価格帯を高いレベルでバランスさせている。
メンバー曰く、
「肩肘張らずにおしゃれができるブランド」(グループマネジャー・大久保諭)、
「時代性を踏まえつつ、主張しすぎない。〝いいバランス〞を目指している」(ディレクター・近藤満)。
そして、チーフクリエイティブオフィサーの沼倉聡は、「この価格帯で、一番の贅沢なものをお客さまに届けたいのです」と語る。
グローバルワークのフィロソフィは3つのFで表現できる。
Fashion(ファッション)、Function(機能)、そこから生まれるFeeling(感覚)だ。
この3つのFが服づくりや店舗づくりの軸となっている。
例えば、細身でラインがきれいなスキニーパンツでありながらも、高い伸縮性を持ち合わせる人気アイテム「E-PAN」。
こちらは、〝動きやすE〞〝暖かE〞〝気持ちE〞と、Eをモチーフにしたネーミングで機能性を打ち出している。
あるいは、ウエストをゴム仕様にするなどくつろぎ着のような着やすさを備えた「ビーチパジャマ」シリーズのジャケットとパンツ。
軽くさらさらとした肌触りの生地でつくられたジャケットは吸水・速乾機能があり、夏でも汗でベタつかない。
こちらもグローバルワークの夏の定番人気商品となっている。
肝心なのは、3つのFのバランスだというが、何をもってベストのバランスとするのか、その基準をどこに置いているのか。ディレクターの近藤に聞いてみた。
「実際に自分が着てみて、判断するようにしています。『これはいい』『ここまではいらない』など、袖を通して初めて見えてくることがあるんですね。極論ですが、多くの高機能を取り入れても、それが10万円もしたらお客さまは納得してくれません。だから、我々はコストを抑えながら、商品がもっとも輝くポイントをとことんフォーカスします。そのあたりもグローバルワークのアイテムが選ばれるポイントなのかもしれません」
そんな近藤の説明には、正直、斬新さや目新しさはないように思える。
しかし、時代が求めるものに答えながら常に理想のバランスを追求し、形にする。
そして、その点に関しては一切の妥協を許さない。グローバルワークの強さは、その徹底にあるのだろう。
デザイナーの水野仁志は、「ものづくりのフローにしても、他社と比べて、格別目立った特徴がある
会社ではない」と言う。
「ただし、いいものを届けるために、できることをできる限りたくさんやる。例えば、我々デザイナーが心がけているのはスピードです。ブランドコンセプトを形に落とし込む作業自体は、他のブランドと変わりありません。ですが、つくってみないと伝わらないことは、まず目に見える形にして議論したい。だから、デザインのスピードが大事になるのです」
「ディレクターである私の役割は、スタッフたちに夢や理想を言い続けること。現実のものづくりには、技術やコスト面で多くの制約が生じます。だとしても、理想の追求をあきらめる必要はない。10年前に無理だったことが、今できている事例はいくらでもあります。あきらめなければ理想はきっと形に近づくと信じています」(近藤)
店舗は〝3F〞のうちFeelingの部分を担うチャンネルだといえるだろう。
浦和美園店の店長、瀧田小百合は、「商品以外の部分でも、お客さまに幸せを感じてもらえる店をつくりたい」と話す。
「私が現在店長を務める浦和美園店では『お客さまが笑顔で帰れるお店ナンバーワン』を目指しています。実現のためには、入店時のご挨拶、フィッティングルームへのご案内の仕方、レジ対応など、〝人〞の部分のブランディングをしっかりしなくてはいけません。やはり一番大事なのはスタッフの笑顔。店舗に足を運んでくださったお客さまには、スタッフ全員が最高の笑顔で対応する。それがお客さまに居心地のよい店と思っていただける基本だと思っています」
一方、グループマネジャーの大久保諭は、こうした店舗を俯瞰して見る立場だ。
「私の役割は、店舗の〝健康状態〞をチェックすること。スタッフの態度や売り場の状態など様々な切り口から、店舗が正常に稼働しているかを見ています。笑顔は販売現場での基本ですが、大切なのはそれを徹底、継続できるかどうか。私も1年半前まで店長を務めていましたが、店舗の中だけにいると視野が狭くなります。そこで、私のような立場の人間が一歩引いた目で見て、様々な気づきを店舗にフィードバックしていきます。おかげさまで、『スタッフの印象がよくなった』とお客さまにお褒めをいただく機会が、顕著に増えています」
10年、アダストリアは「世界を目指す」方針を高らかに掲げた。
現在は、ローリーズファームを海外展開の中心に据えているが、近い将来、グローバルワークの出店も加速させる。
現場のメンバーは、どこに課題があるとみているのか。
「ヨーロッパで生まれるファッショントレンドをリサーチし、服づくりをしていく旧来の手法は、2
0世紀的でこれからはもう通用しない。これから僕たちがやらなければいけないのは、ブランドとしての強いオリジナリティを醸成していくこと。〝3F〞はそのための武器です」(大久保)
「やはり世界で売れるのは、オリジナリティのある服です。グローバルワーク以外に3つのFをちょうどよくバランスさせた服が世の中に存在しないのであれば、お客さまから自然と選ばれるようになるでしょう」(水野)
「世界を目指すブランド」へ。4年前にその青写真が定まったことで、全部門で仕組み化が一気に進み、それは現場で働くメンバーのメンタリティをも変えつつある。
「以前は『グローバルワークってこういうブランド』というイメージがふわっとしていて、説明することが難しかった。でも、そこが明確になって、世界に向かっていく青写真も全員で共有することができました。私たちはすごいブランドで働いている――。それが実感できるようになってから、みんなのモチベーションが数段高くなったと思っています」(瀧田)
本文中敬称略
近藤はディレクターの仕事として、月ごとのブランドストーリーを考えている。
なかでも年2回、春夏と秋冬に全体のディレクションを設計する時期になると、缶詰状態に。
「できあがったストーリーや商品のポイントが店頭でお客さまに伝わるよう、日々思考錯誤しています」
Men’s Director
近藤 満
イッセイミヤケ・エイネット、大手SPAなどを経て、2012年から現職。同社に入社するまではデザイナーだった。
「グローバルワークは、海外でも喜んでいただける力を持ったブランドであると感じています。私の役割は、世界に出ても負けないブランドに育てていくこと。自分はアパレルの世界で育ててもらったので、この業界が少しでも良くなるようにがんばりたいですね」
服をつくっていく上で気持ちが一番盛り上がるのは、そのシーズンにおけるディレクション方針を聞いた時だという。
「どんなデザインにしようかと、想像がどんどん膨らんでいきます。常にイメージどおりの形がつくれればと思うのですが、実際はそううまくいかず(笑)、何度も試行錯誤を繰り返します。一生懸命つくった服を、店頭でお客さまに買っていただき、喜んでもらう。それが一番の喜びですね」
Men’s Designer
水野仁志
スポーツブランド、大手SPA、大手セレクトショップを経て2014年より現職。一貫してメンズのデザインを手がけてきた。
「ブランドのコンセプトを形にするデザイナーの仕事そのものは、グローバルワークにおいても変わりはないと思っています。ビジョンが明確なブランドでもありますし、ビーチパジャマなど新しいコンセプトを形にするのも面白い」
「店長時代は一店舗の中の限られたメンバーをマネジメントすることが仕事でした。でも、今は8つの店舗を見ています。数が増えた分だけやりがいも大きくなりました」。
メンズ、ウィメンズ、キッズを扱うグローバルワークの店舗は、客層も幅広い。
「店舗スタッフは、グローバルワークの顧客層に合わせ、年齢やキャリアの幅を持たせた採用をしています。これもオリジナルの工夫です」
Group Manager
大久保 諭
2006年にアダストリア入社。同社のブランド「HARE」の販売、内部監査室を経て、グローバルワークに異動し、店長に。16年からは、グループマネジャーとして8つの店舗を統括している。
「グローバルワークは、すべての人が幸せになるブランドを目指しています。ゆえに店舗は、お客さまだけではなく、スタッフにとっても居心地のよい場所であるべきだと考えています」
「お客さまにできる“おもてなし”の向上を、常に考えています」。
居心地のいい店舗にするべく、挨拶やお辞儀の仕方など、スタッフの一つ一つの行動を見直している。「例えば、奥さまが旦那さまの服を買いに来店されるケースも多いので、女性がメンズ商品を見て疑問に思う点を整理し、説明できるようにしています。どうすればお客さまを笑顔にできるのか? できることはまだまだあると思っています」
浦和美園店店長
瀧田小百合
2008年、アダストリアに新卒入社。6年前から、浦和美園店、春日部店、北戸田店、ちはら台店の店長を経験。
「今、グローバルワークらしい店舗オペレーションの確立を目指しているところです。笑顔一つをとっても、あるべき形を繰り返しスタッフに伝え、実践してもらうようにしています。そのためにも私自
身が常に笑顔でいること――これが一番大切だと思っています」