ブランドを作り上げたメンバーが語るブランドへの思いとその成功の軌跡
株式会社ユナイテッドアローズ唯一のレディスオンリーブランド・ジュエルチェンジズが、2019年3月にリブランディング。エメル リファインズに生まれ変わった。
コンセプトは"Pleasure ~今を楽しみ、変化を楽しむ~"
EMMELは空、天を表すHEMEL(へームル:オランダ語)の造語。
13年続いてきた㈱ユナイテッドアローズのジュエルチェンジズが、2019年3月、エメル リファインズにリブランドした。コンセプトは"Pleasure ~今を楽しみ、変化を楽しむ~"。
ショップもこれまでのジュエルチェンジズの店舗に加え新しく3店舗加え9店舗の展開となった。
時代に合わせてブランドが新しい姿に更新し、リブランドされていく。そういった変化の手法はどのような背景で、どのように進められているのか。そしてブランドの名前を変えてまでリブランディングするのは勇気が必要だ。その裏付けとなる理由と必然性は何か。
エメル リファインズへのリブランディングに関わったチーフMD住友奈月(写真左)、企画デザイナー野口貴恵子(写真中)MD榎本彩子(写真右)の3人に伺った。
リブランディングチームが立ち上がったのは約1年前の2018年1月。各職務から約10名が集まり、ゼロからの作業になった。
当時のジュエルチェンジズが直面していた課題は、ターゲットの20代後半の女性の生き方、働き方の変化だった。住友は今回のリブランディングチームのチーフを務める。
「ジュエルチェンジズはコンサバティブなテイストの20代OLの通勤着がメイン。職場の同僚、上司といった男性など、他者の社会的な視線を意識したものでした。ですが、今は会社の職場もカジュアルに変わりつつあり働き方が多様化しています。そして女性たちはインスタグラムなどのSNSで自分を発信し、他者目線よりも自分が着たい服を着るように優先順位が変わってきています。気分に合わせて自分を更新し、結果的に女性から共感を得られる服を着たい。そういった自分軸をもった女性をターゲットにしたブランドにしていく必要を感じていました」(住友)
13年間ジュエルチェンジズができた当初から携わってきた榎本も時代の変化を感じていた。
「ジュエルチェンジズは職場の上司、彼氏、そして彼氏の両親まで全方位的に好感度の高いマイルドなテイストの服と言われていました。自己よりも周りの視線が優先なんですね。でも今はSNSで自己プロデュースをする女性が増えている時代です。ジュエルチェンジズのコンサバティブさは時代に則していないのかな、と」
働き方改革のニュース、店舗からあがってくる来店動機の情報、街での観察、身近な人たちからの情報、雑誌の特集タイトル……。さまざまな情報から、その方向性はより具体的なワードに落としこまれていく。
「ターゲットの20代に話を聞いた時は『友だちと会うときに一番気合いが入る』というリアルな声がきけましたね。昔は気合いを入れるのはデートや合コンだったそうですが(笑)」(野口)
上司よりも彼氏よりも、まず女友達にいいね、と言ってもらいたい。
以前はカップルで店にくるお客様も多かったが、今はほとんど見かけない。むしろ女友だちと店に来る方がメインという。
「会社で褒められる服やデートに着ていく服ではなく、女子会に着ていく服。かっちりした通勤の服よりも、オン・オフで着られる服。そういったものが女性からの共感を得る時代。その女性たちに喜ばれる服に変わっていく必要性を感じていました」(榎本)
そんなディスカッションを続ける中から生まれたのが、pleasureというワードだ。今を楽しみ、変化を楽しむ。変化していく時代を前向きに楽しみ、常に自分を更新していく――その想いをこめたコンセプトだ。
コンセプトが決まったあとはより細かいテイストに落とし込んでいく作業が続く。
会議では、テイストやスタイリングを言葉に落とし込み、それを企画デザイナーがイメージ写真として次の会議に用意。たとえ同じ言葉を共有していても、スタイリング画像をみると「そこまでじゃないよね」となったり、イメージのずれが見つかる。それを調整しながら全員の方向性を具体的にしていく。
「最初は外国人モデルのイメージ写真など、いわゆるトレンドや今のおしゃれを盛り込んだビジュアルで会議に臨んでいましたが、最後には日本人の20代のインスタの写真や、店舗スタッフのスタイリング写真など、“リアル”なビジュアルに落とし込んでいきました。そこでイメージを共有できたので、その後デザインに悩んだときもメンバーに相談しながらつくることができましたね」(野口)
ジュエルチェンジズからブランドの名前を変えるとなると店舗での顧客へのフォロー、新しい顧客づくりも気になるところだ。
「これまではお客様のニーズを引き出して、寄り添う接客スタイル。合コン、デートといった場面に合った服を提案していました。ですが、これからは販売スタッフから提案していくスタイルに変えていこうと。お客様に『これからはこれがかわいいんですよ』と提案して、引っ張っていく接客を意識しています。それがリアルな共感につながるのだと思います」(榎本)
お客様もブランドと一緒に変化し、成長していく方向へ導くスタイルだ。
「とはいえ、まだ今はリブランディングして半年。今でも『エメルらしさは?』『女っぽさとは?』と議論しています。必ず具体的なビジュアルを用意して、スタイリングの盛り具合、コーディネートの立たせ具合の答え合わせの会議は続けています。そこで目線合わせをしていくことで方向性を固めています」(住友)
ブランドの組織ではディレクターが方向性を決めていくという形が一般的だが、実は、エメル リファインズにはディレクターがいない。それはジュエルチェンジズ時代から続いてきたものだ。
「意志を持ってディレクターを立てない、と決めています。私たちの売りはチーム力なんです」(住友)
ディレクターが立つと、どんなに注意してもそのディレクター個人の趣味嗜好やライフスタイルの変化がブランドに表れる。そして、ある一定の顧客に支持されてそのままディレクターが変わらずにいると、どうしても顧客の年齢が一緒にあがる。それは必然的にそうなってしまう。
「私たちが担いたいのは20代後半から30代前半の働く女性。その時代ごとにこの年代の女性に喜ばれる存在であり続けるためには、個人のディレクターをたてるのは合わないのだと思います」(榎本)
エメル リファインズでは、デザイナーが提案してきたデザインは、みんなの意見を聞き、共感を得るところを答えにする。企画を考えるときは想像だけで考えず、実際の20代たちのリアルなオンオフの着こなしを知る努力を惜しまないことを全員がミッションとしている。
野口はデザイナーの立場からもこのチームのよさを感じている。
「ディレクター一人がみんなを引っ張るという形ですと、エメル リファインズとしては答え合わせがしづらいんです。私たちは本当にその気持ちは合っているのか、というところを一番大切にしているチーム。ここでの共感が得られないと、お客様の共感も得られないですよね」
自分軸で服を選び、異性よりも友だちの共感でファッションを選ぶ時代。ブランドをつくる現場も時代に合わせて変わっていくのかもしれない。
(文中敬称略)
「エメル リファインズのものづくりメンバーは15人。いい商品をつくるために大切にしているのは、コミュニケーション。普段から企画、店舗、プレスのみんなと日頃から会話をして、思ったことを言い合える環境づくりを心掛けています」
みんなで楽しく、気持ちよく働きたいのが住友の基本姿勢。
「エメルをたくさんのお客様に知っていただき、成長・拡大させていきたい。常にリアルな感覚で支持されるブランドに育てていくのが目標です」
エメル リファインズ チーフMD
住友 奈月 Sumitomo Natsuki
2012年、㈱ユナイテッドアローズに中途入社。グリーンレーベル リラクシングでMDとして7年、結婚・出産で半年の産休をとったのち、エメル リファインズのリブランディングメンバ―として抜擢される。現在15名のメンバーを束ねる。
「ユナイテッドアローズには子育てしながら働く女性がたくさんいます。キャリアも育児も介護も、やりたいことを全部あきらめずに働ける環境をつくっていきたいですね」
「今回のリブランディングからチームに参加したので、以前のジュエルチェンジズのテイストを知らないことでニュートラルにデザインを考えることができました。その部分で新しいデザインに挑戦できましたし、ブランディングにも貢献できたかなと思います」
デザイナーも今後増やしていく予定だ。
「企画からも新しい提案でエメルをひっぱっていけるようにレベルをあげていきたいですね。新しいデザイナーの新しい視点をどんどん取り入れていけるようなチームにしたいと思っています」
エメル リファインズ 企画チーフデザイナー
野口貴恵子 Noguchi Kieko
2017年、㈱ユナイテッドアローズに中途入社、グリーンレーベル リラクシングを経て、エメル リファインズのリブランドメンバ―に配属される。
「転職をして、新しい刺激をたくさん受けています。社内社外含め関わる人たち、情報の入り方すべてが変わって、デザイナーとして作れるテイストの幅が増えましたね」
「女性は共感の生き物。まず店舗スタッフもECスタッフも商品を心から素敵だと思うことで、ブランドの魅力が全方位に伝わるし、お客様の共感を引き出せる。そのためのブランドの確立が、今の目標ですね」
ものづくりの現場ではMDとして方向性に決断を迫られることも多い。
「決断するときには、自分の素直な気持ちに立ち返るようにしています。お客様に対峙したときも加減をしたり、小手先の対応では共感は得られない。素直にいいと思うものを出していったときに共感が生まれるんですよね」
エメル リファインズ MD
榎本 彩子 Enomoto Ayako
2007年、㈱ユナイテッドアローズに新卒入社。入社当時からエメル リファインズ前身のジュエルチェンジズに配属。以来、店舗スタッフ5年、OEMバイヤー5年、MDと13年間同ブランドに携わり、今回のリブランディングにも参加。
「ずっとこのブランドに関わってきたので、売り上げの読みやお客様の感覚があること、そして店舗スタッフメンバーとのつながりといった強みを生かして、エメル リファインズを大きくしていきたいですね」