ブランドを作り上げたメンバーが語るブランドへの思いとその成功の軌跡
ミリタリーファッションの老舗として知られる「AVIREX」が2012年、レディースライン「AVIREX Belle」を立ち上げた。同年、東京の渋谷ヒカリエにブランド初となるレディース単店をオープン。レディースカジュアルにミリタリーのテイストをちりばめ、好評を博している。
今から41年前、米空軍の正式指定業者として産声をあげた「アヴィレックス」。以来、フライトジャケットをはじめとしたミリタリーアイテムは、優れた機能性と良質なデザインで世界各国のファンを魅了している。日本では1986年に上野商会が輸入総代理店契約を締結。近年のミリタリーブームにおいても"老舗ブランド"の存在感が光る。
ブランド初のレディースライン「ア ヴィレックスベル」が誕生したのは、2012年のこと。同時に渋谷ヒカリエにもレディース単店をオープンした。ブランドコンセプトは、ミリタリーファッショ ンのテイストをレディースカジュアルに落とし込むこと。少数ながらそれまでもレディース対象アイテムを扱っていたアヴィレックスだが、"メンズをそのまま サイズダウンしたもの"が中心であり、 女性らしいサイズ感やシルエットとは 言い難かった。だが、アヴィレックスの出店が進むにつれて"女性が着られるミリタリー"を待望する声が高まっていたのだ。
アヴィレックスベルらしさを服の形にするのがデザイナーの森山葉子だ。いかにミリタリーとはいえ重い服は女性に好まれず、男性との好みの違いは明ら か。しかし森山はパタンナーからキャリアをスタートさせた経歴の持ち主らしく「女性をきれいに見せるラインや着心地には自信があります」と頼もしい。
アヴィレックスベルはトレンドとの距 離感も独特だ。永遠の定番アイテムであるMA1などは「変えてはいけないところ」とみなす。トレンドを取り込む べきは周辺のアイテムだが、それでも 「一枚でしっかりアヴィレックスの匂いがする服」に仕上げるのが森山の腕の見せどころといえる。「例えばムートンのダッフルコートに、フライトジャケットに使うレザーテーピン グを持ち込んだり。最近強化しているのはニットですね。デザインはメンズっぽいのですが、着るとしっかり女性らしいシルエットが出る」(森山)
森山のもとには売り場で聞かれた声や商品リクエストが届く。レディースの販売を統括する中村茜、現在はECも担当する横山恵理は、 10年以上に わたって店舗からアヴィレックスを支えてきたメンバーだ。 「昔は、女性スタッフも1店舗に1人いるかいないか。そこから少しずつ女性が増えていきました。私たちは、もっとアヴィレックスのレディースを広めたくて、企画と一緒に服をつくってきたん です。店舗の人間にとっても、自分のやりたいことが形になるブランドだったと思います」(中村)
「女性が着られるよう、細く見えるもの、それでいてちゃんとミリタリー感があってカッコよく着られるもの。そういうサジ加減のところを意見してきたつもりです」(横山)
アヴィレックス新宿店・店次長の緒方愛美も「今なお、売り場からの声がヒット商品になりやすいブランド」との印象を口にする。 「例えば渋谷や新宿の路面店と、 ショッピングモールのテナント店とではかなり客層が違います。ファミリー層が多いお店に勤めているスタッフから、親子ペアや夫婦ペアで着られる服や、最近だとドッグウエアが提案されて、商品になったことも。高級店が並ぶ立地 にある心斎橋や新宿店では、この店だけの限定商品や、価格は高くても上質なものがリクエストされたこともあり ました」(緒方)
もともとアヴィレックスはメンズであ り、上野商会全体を見渡しても、男性社員が7割を占めている。しかしレディース を売るには、やはり女性スタッフの力が頼りとなるのは間違いない。 「アヴィレックスベルは、どこでも買える デザインを置いているわけではありませ ん。むしろ個性が強すぎて普段着られ るかな?というような服です。着こなしだけでなく、デザインの意図や、メンズ として生まれたブランドであるという歴史も知ってもらいながら接客するようにしています」(中村)
一方で「お客さまとの距離が近いブラ ンド」と緒方は言う。接客にしても、マ ニュアルらしいマニュアルはなく、スタッフと 客が服とは無関係の話題で盛り上がることもしばしば。背景にはこんな思いがある。ネットでいくらでも買い物ができる時代にあって、店に足を運んでもらうにはどうしたらいいか。 「『どうせ買うならあなたから買いたい』 と思わせる接客をしてほしいとスタッフ には指導しています。そのためにも商品 以外のところでもお客さまとコミュニ ケーションを楽しんでほしい」(緒方)
現在、アヴィレックス全体の売り上げに占めるレディースの割合は15 %ほど。 中長期的にはこれを30 %にまで引き上げる計画だ。そのための課題は「女性スタッフが働きやすい環境をつくり、女性を増やし、女性店長を育成していくこ と」。女性たちは、結婚・出産など、ライフイベントのたびに働き方を変えざるを得ないことがある。経験を積み店長を任されても、同じペースで働き続けられるとは限らない。 横山は、育児をしながら時短で働く女性の一人。アヴィレックスにおける、女性スタッフのロールモデルだ。 「少しずつ育児をしながら働くスタッフ が増えていますが、多分私が第1号。土日勤務ができない、繁忙期に店頭に立てないことを悩んだ時期もあります。そこで会社に相談し、今はECショップの担当も兼務しています。働ける時間が限ら れているなかでもECの仕事でキャリアを積んでいきたい」(横山)
店舗の側でも、女性スタッフが働きや すい環境づくりを進めている。小さな悩みであれば先輩スタッフに相談し、店で解決できる体制も整ってきた。しかし何より「服が売れなきゃ楽しくない」とは 中村の意見。 「自分が着ているアヴィレックスの服を見 たお客さまが、同じものを買ってくれた、そういう場面が一番楽しいと思うんです。私たち昔からいるスタッフは、こんなアイテムを打ち出しましょう、こんな着 こなしを提案しましょうといった意識統一をして、楽しく店頭に立てるようにし てあげたい。それが女性が長く働ける職場づくりにつながるはず」(中村)
ミリタリーブームの追い風もあり、ア ヴィレックスベルは認知度を徐々に高め てきた。聞けば、当初は社内でも「メンズだけでいいのでは」という声が上がったと いう。メンズに比べ商品の回転が早い、メンズと同じ生産ラインにのせないとコス トが嵩むなど、確かに課題は多かった。し かし、女性が着られるミリタリーを望む ユーザーに背中を押され、そろりそろりと歩を進めてきた4年だった。 「13年、アヴィレックスのレディースを見 てきた人間としては『やっとここまでこ られた』という思いです」(横山)
本文中敬称略
女性が働きやすい職場をつくりたい、 そして販売員にとって商品が売れることほど楽しいものはないと話す中村。「ですから私の役割は、服が売れて、みんなが楽しく販売できる店舗をつくること。今は私と緒方を含めて3人で、レデ ィースの販売戦略を決めています。一番嬉しいのも、そうやって自分たちが仕掛けて、売りたい服が売れた時です。『よし、あたった』という感じで」
レディース全体統括
中村 茜
「AVIREX」川崎店、船橋店、ららぽーと横浜 店、横浜店を経験。現在はレディース全体の販売スタッフの管理や販売戦略を担当している。「もともとメンズっぽい服が好きで、上野商会に入社。「AVIREX」に配属されたのはたまたまですが、当時はレディースライ ンがなくて、だったら自分でつくってみたいと思いました。女性スタッフが少ない時代から働いていますが、長く続けていたからこそ得られた経験もある。 女性が働きやすい職場をつくりたいですね」
「トラッドなどに比べてミリタリーはライフスタイルに入りにくいゾーンだと思 わ れていますが 、意外とミリタリーの匂いのする アイテムは根付いている。常に時代に合ったミリタリーを考えられる はず」。2週間に一度は街に出て人々を眺める。「トレンドを点ではなく線で見るためです。変わり目を見誤ると命取り。『このアイテムはもう少し寝かせよう』などタイミングを計っています 」
デザイナー 森山葉子
大阪の専門学校を卒業後、関西で就職。上京後は、フリーランス、トラッド系老舗ブランド のデザイナーを経て、現職。関西時代に、パタンナーからデザイナーに転身している。「数ミリの違いで着心地が変わる。パターンの引き方ひとつで、売れる服にも売れない服にもなる。デザインがすべてではない、というところに惹かれてパタンナーになったのですが、師匠から『デザイナーのほうが向いている』と言われてしまいました(笑)」
実店舗とECの両方を見ている立 場。双方で売れ筋が違うといい、そ れを販売戦略に反映させることも。 「MA-1などの定番商品の売れ行きは同じなのですが、よりお客さま層が広く、トレンドを意識したもの、 価格帯が低めの商品に反応がある ZOZOTOWN店限定で、今トレンド のワイドパンツを低価格で販売した らヒ ットしました」
EC担当
横山恵理
2003年にアルバイトとして「AVIREX」 新宿店に配属された。以降、渋谷店、 立川店などを経て現職。「AVIREX」 新宿店の店頭に立ちながら、 「ZOZOTOWN」上のショップも管理す る。2児の母で、現在は時短勤務中。 「育児をしながらAVIREXで働いている スタッフは私が最初。経験ある人材が辞めるのは、会社にとってももったいないはず。後輩女性スタッフのためにも道を開いていきたいです」
店次長は、スタッフの管理や指導が優先度の高い業務になる。「どんな意識で このアイテムがつくられたのか、どう販売するべきなのか、各スタッフと意識を統 一するようにしています。お客さまとの密 なコミュニケーション、距離感の近い接客もブランドのス タイル。私自身、接客がすごく好きですし、後輩たちには楽しんで仕事をしてもらいたい。それがお店のファンづくりに必ずつながりますから」
AVIREX新宿店・店次長 緒方愛美
高校卒業後、アルバイトとして勤務、 その後社員に。心斎橋店で5年、 2016年3月に新宿店へ異動した。 「『AVIREX Belle』は、個性的でほか にない感じが売りですね。自分も好きなんです。特に今着ているようなミリタリーシャツは毎年、無意識のうちに買っています(笑)。ワッペンだったり刺繍だった り、こういう手の込んだものは、うち以外ではなかなか探せないと思います」