ファッション業界の最前線で活躍するトップクリエイターの方々にインタビュー
フランスでは一般的に、“かわいい”よりも“セクシー”のほうが受け入れられます。実際、パリ店のフランス人スタッフに「ツモリの服はセクシーさが足りない。もう少し襟ぐりを大きくしてみたら?」と言われ、デザインを変更したこともありました。
ただ、徐々にわかってきたのは、フランス人はオリジナリティのあるものが大好きだということ。個性的なデザインなら、どんなに子供っぽくても許容される。“かわいい”を受け入れる素地があるということです。
また、パリコレには世界中のバイヤーが集まってきます。「かわいいものが好きな外国人もたくさんいる」という手応えも得られました。それならば、日本よりパリのほうが大きな勝負ができると考え、コレクション発表の場をパリに移したんです。でも、デザインの拠点は日本に残しています。パリに行くのはコレクション時期の年4回か、多くても6回ほど。1回の滞在はだいたい1週間で、ショーとプルミエール・ヴィジョンが重なっても2週間くらいかな。
これまで開催したコレクションの中で印象に残っているものを挙げるとしたら、02年秋冬の東京でのラストコレクション、03年春夏のパリのデビューコレクション、そして、I.S.時代の最初のコレクションの3つでしょうか。実はこのI.S.のコレクションは、最悪でした。モデルに服をきちんと着せつけていなかったため、ショーの途中で服が脱げてきちゃったんです(笑)。「時間がない中でも、完璧を目指すべきだった……」、と、過去で一番反省したという意味で、今もって忘れられないコレクションとなりました。
東京でのラストコレクションは、派手な演出がすごくよかった。舞台に格子状の枠をつくってモデルを立たせ、シルエットを映し出すところからスタートしたんです。ヒントになったのは、ニューヨークで見たミュージカル。「これをショーに使ったらいいな」とひらめきました。
03年春夏のパリコレが忘れられないのは、やはり海外デビューだったからですね。スタッフは日本から連れて行くより、現地で手配したほうがショーの費用も抑えられるし、パリらしい空気感も盛り込めるというアドバイスを受け、パリで知り合ったティエリー・ドレーフェス氏に依頼することに。感性の合う彼とは、今も一緒に仕事をしています。
現地スタッフと組むのは初めてでしたが、とても仕事がしやすかった。ヘアメイク、音楽、会場と各自の仕事が細分化されていて、私が「こうしたい」というと、「こういうのもあるけど、どう?」と新たな提案をしてくれる。お互いがプロ意識をぶつけ合ったことで、本当にいいものに仕上がりました。
つもり ちさと津森千里
1976年 文化服装学院デザイン科ファッション課程を卒業し、
アパレル企業に就職。約1年勤務した後、3カ月間ニューヨークを旅行
1977年 株式会社イッセイミヤケインターナショナルに入社し、「イッセイスポーツ」のデザイナーとなる
1983年 「イッセイスポーツ」のブランド名を「I.S. Chisato Tsumori Design」に変更し、
チーフデザイナーに就任
1986年 文化服装学院の同級生と結婚。2年後に長男を出産
1990年 津森千里デザインスタジオを設立。東京コレクションに参加し、
自身のブランド「TSUMORI CHISATO」を発表(90-91A/Wコレクション)
1995年 TSUMORI CHISATO青山店をオープン
1999年 TSUMORI CHISATOパリ店をオープン
2003年 メンズラインを発表。コレクション発表の場を東京からパリに移し、
パリコレクションデビュー(2004S/Sコレクション)
2008年 TSUMORI CHISATO GOLDを銀座にオープン。
ドレスライン「TSUMORI CHISATO DRESS」を発表
2010年 ブランド20周年を記念し、7年ぶりに東京でもショーを開催
2015年 ロシアのモスクワにフランチャイズショップをオープン
受賞歴
1985年 第3回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞
2002年 第20回毎日ファッション大賞