ファッション業界の最前線で活躍するトップクリエイターの方々にインタビュー
ワールドへの移籍にあたり、洋服のデザインだけでなく、洋服周りのデザイン活動にも範囲を広げたいという思いを、寺井秀藏さん(現ワールド社長)に伝えました。そして実現したのが、86年に開店した西麻布のTKビルディング。バーバーやスヌーカーバーを併設し、洋服を取り巻く環境全体を提案した80年代型の新しいショップです。
僕は、これまでデザインアイデアが出なくて困った経験がありません。性格的に飽きっぽいせいか、手がけている作品が完成する頃にはもう飽き始めて、次のことを考えている。その繰り返しが、新しい発想につながってきた。 苦しんできたのは、気分の浮き沈みです。最初は「僕がやっていることは最高だ!」と思う。ところが、次の瞬間にはテンションが急降下して、自分がやっていることすべてが嫌になってしまうんです。
特にひどかったのは、86年春夏のショー。直前までは「テーマもストーリーも最高だ!」と気分は絶好調。でも、リハーサルの直後に「すべてが最悪だ……」と気分がどん底に沈んでしまった。洋服のできや評判云々ではなく、演出など自分がかかわっていることすべてを否定したくなる……自分で自分を追い詰めてしまう感覚です。
このショーは人気があったので3回の公演を予定していましたが、1回目が終了したとたん全身の血の気が引いて醒めていく。この時は、どうにも耐え切れず、僕は途中で帰宅してしまった。風呂に入って何とか平常心を取り戻し、最終回には戻りましたが、その後も気分の落ち込みがしばらく続きました。何年か経って、周囲から「今までのベスト3に入るショーだった」と言われ、ようやく「そうかもしれない」と受け入れることができたんですけどね。
きくち たけお菊池 武夫
1939年 5月25日、東京千代田区生まれ
1959年 文化学院美術科に入学
1961年 原のぶ子アカデミー洋裁学院に入学
1962年 原のぶ子アカデミー洋裁学院を卒業。ルリ落合のアトリエで、佐久間良子の映画衣装を手がけた後、銀座のクチュリエ2店(マダムミキで4カ月、ミモザで6カ月)で女性の注文服制作を経験
1963年 稲葉賀惠と結婚
1964年 自宅にアトリエを構え、稲葉賀惠と2人で注文服を手がける
1969年 ヨーロッパとアメリカを1人で2カ月間旅行する1970年 大楠祐二と株式会社ビギを設立。表参道に1号店をオープン
1975年 株式会社メンズ・ビギを設立。青山キラー通りに1号店を出店
1978年 パリに株式会社メンズ・ビギヨーロッパを設立
1984年 メンズ・ビギを退社。ワールドに移籍し、タケオキクチを発表
1986年 自らプロデュースした複合商業施設TKビルディングを西麻布にオープン
1996年 ウォン・カーウァイ監督、浅野忠信主演の短編映画『wkw/tk/1996@7'55"hk.net』をプロデュース
2004年 タケオキクチのクリエイティブディレクターのポストを、後進に引き継ぐ
2005年 40歳以上をターゲットとしたブランド、40CARATS&525を発表
2012年 タケオキクチのクリエイティブディレクターに復帰
2014年 「30周年記念コラボレーションアイテム」を展開