“モノづくり“という共通のフィールドで活躍する異業種クリエイターのインタビュー
福田 雄一
1968年、栃木県生まれ。現在、バラエティ、ドラマ、映画、舞台とジャンルを超えて活躍するクリエイター。90年に成城大学演劇部を母体に劇団ブラボーカンパニーを旗揚げし、全作品の構成・演出を担当。並行して放送作家として『新・堂本兄弟』『ピカルの定理』『いきなり!黄金伝説。』など数多くの高視聴率番組に関わる。舞台では劇団の公演の他にも、07年よりマギーとの共同脚本・演出のユニット「U-1グランプリ」を立ち上げた。テレビドラマや映画の脚本家・監督としても活動の幅を広げ、ドラマ『ギンザの恋』(02)、『ですよねぇ。』(06)、『和田アキ子殺人事件』(07)、『1ポンドの福音』(08)、『猿ロック』『東京DOGS』(09)、映画では『逆境ナイン』(05)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(08)、『非女子図鑑』(09)、『かずら』(10)などの脚本を担当。DVD作品『THE3名様』シリーズ(05~09)、バナナマン主演『地球征服アパート物語』(11)で脚本・監督を手がけ、劇場用映画としては脚本も担当した『大洗にも星はふるなり』(09)が監督デビュー作となる。そのほか近年は舞台『スマートモテリーマン講座』の作・演出、ミュージカル『モンティ・パイソンのスパマロット』の企画・脚色・演出、『フル・モンティ』の演出、翻訳、訳詩を担当。また放送作家としても活動を続けながら、ドラマ脚本、監督を手がけた『勇者ヨシヒコと魔王の城』(11)、続編『勇者ヨシヒコと悪霊の鍵』(12)が高視聴率を記録。12年には指原莉乃主演のドラマ『ミューズの鏡』および『劇場版ミューズの鏡 マイプリティドール』、小嶋陽菜主演の『メグたんって魔法つかえるの?』、鈴木福主演の『コドモ警察』でも全て脚本・監督を担当。13年には映画版『コドモ警察』(脚本・監督)およびスピンオフドラマ『コドモ警視』(脚本・監修)、映画『HK/変態仮面』(脚本・監督)、『俺はまだ本気出してないだけ』(脚本・監督)、ドラマ『天魔さんがゆく』(脚本・演出)、『裁判長っ!おなか空きました!』(脚本・演出)、『都市伝説の女』(脚本)などを担当。今年もドラマ『私の嫌いな探偵』(脚本)、6月7日公開の映画『女子ーズ』(脚本・監督)、などを手がけている
ものづくりを始めたきっかけを振り返ると、小学校の「お楽しみ会」だと思います。学期末毎に開催されるその時は、友達5~6人で集まって、僕が台本を書いて、ちゃんと稽古をして、オリジナルのコントをやっていましたね。小学校の頃からそういうのが好きで、中学校の時も先生に頼まれて、全校生徒の前でコントをやっていました(笑)
ただ、中学生の頃には僕はゴルフに夢中になって。プロゴルファーになりたいと思っていたので、高校を卒業したらプロの道に進もうと思っていました。でも、父親に大学進学を勧められたので、大学のゴルフ部に入って、学生選手権を目指すことにしました。そこで、今度は志望校選びです。当時は日大の全盛でしたが、日大の監督はスパルタでも有名で(笑)ちゃんと自分で納得できるゴルフが練習できるところがいいと思って、高校の先生に相談したら成城大学を勧められて、受験しました。
成城大学に入学してから、ゴルフ部に入ろうと思って説明会を聞きに行ったら「月々の部費が12万円かかります」って言われて。当時住んでいたアパートが5万円で「何で倍以上の金を費やすんだろう…」と思いながら話を聞いていたら「夏の合宿になると50万円かかります」とか。その費用が痛くも痒くもない人たちが揃っているのが成城大学なんだなぁと、その時に大学のセレクトがミスだったと思いましたね(笑)
なので、大学一年で「ゴルフをもう一回やらせて欲しい」と実家に戻りました。でも、ゴルフに夢中になっていた中高生の頃の研修生という立場に戻るのは難しくて、結局、道筋を悩んでいる間にゴルフがどんどん下手になっていきまして(笑)「もう無理だから、大学に戻りなさい」と父親に言われたのですが、中学生の頃から引っ張ってきた夢だったので、ノイローゼに近い状態になりまして。それで昼間でもずっと雨戸を閉めて引きこもって、外に出たくないから、食事も自炊や店屋物で…という生活をしていました。そんな中、ある日ふと見たニュース番組で「今、小劇場がブームです」という特集をやっていて、5~6分くらいの短いVTRでしたが、その映像を見た時に、小学校で好きだった「お楽しみ会」の感覚が、ものすごい勢いでフラッシュバックしてきて…「うわぁ、楽しそう!」って思ったんですよ。
それまで演劇と言えば、学校に来てくれる旅劇団のイメージしかなかったのですが、その時見た映像が、あまりにもポップで「東京の演劇って、こんなに面白そうなんだ、ドリフのコントみたいな感じで演ってるんだなぁ」と思って。で、すぐに見に行って「うわぁ、おもしれー!」と思ったので、もともと入ろうと思っていたゴルフ部を捨てて(笑)成城大学演劇部に入りました。それが、ブラボーカンパニーの旗揚げにも繋がって、そこからずっと演劇づけの20数年間ですね。
ブラボーカンパニーは、劇団としては25年目を迎えます。公演も定期的に行って、ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ(テレビ東京系)では役者陣のレギュラー出演に加えて、モンスターの制作も手掛けたり…役者さんはちょっと苦戦していますけど(笑)メンバーが、まぁ辞めずに(笑)ずっと続く…なかなか、息の長い劇団ですね。
僕、矢口史靖監督の映画『裸足のピクニック』が好きなんです。ヒロインが不幸なアクシデントに遭遇し続ける『裸足のピクニック』は、特に前半のペースが好きで、そのイメージで最後まで引っ張れるような映画が作れないかと、ずっと思っていました。ただ、物語の真ん中で、ずっと不幸に苛まれていくヒロインには、相当な力量が求められると言うか、相当の存在感がないと難しいと思っていて。『裸足のピクニック』では、ヒロインがずっと無表情でいるところがすごく好きなんです。無表情で演技しない感じなのに、そのヒロインを真ん中にずっと見ていられるっていうのは、なかなか実現できないことなので、「この子だったらできるかな」っていう相手に今まで出会ったことがなくて。
そんな中、長らく『裸足のピクニック』のイメージは頭の中に持ち続けていたところ、さっしー(指原莉乃さん)と初対面の時に「この子だったらできるなぁ」と思ったんですよ。それから何度も秋元康さんと打ち合わせを繰り返して、「さっしーで『裸足のピクニック』やらせてくれないか?」とずっと提案していて。で、今回たまたま、そのラッキーが訪れて実現することになって。僕の希望だった『裸足のピクニック』の最初あたりのいいテンポ感を最後まで引っ張れるようなバカバカしいものを、という考え方で作ったのが今回の映画『薔薇色のブー子』です。
僕は普段の役者さんの姿を見ているのが好きなんです。一緒にごはんを食べている時とか休憩時間に見ていて、「こんなことができるんだ」とか「こんな感じのことが好きなんだ」っていうのを劇中の演出に引っ張ってくるのが好きで。
『コドモ警察』の撮影でも、鈴木福くんが同級生の子役たちと楽しく遊んでいる姿を見て「こういうの、おもしろいかもしれないなぁ」と劇中の演出に引っ張ってくることもありました。
役者さんに無理して何か特別なことをやってもらうより、ご本人が得意なことをやってもらった方が楽しいと思うので、そこは普段からよく見ているようにしています。
その演出が「対芸人さん」となると、芸人さんは言葉を頼りにしてくる生き物なので、そこが一番活きる形で演出するのが一番いいと思っています。
「ここでちょっとした気の利いた表情を見せてください」とか、「こんな感情をのせてください」っていう類のことは、僕は芸人さんには言わない方がいいと思っていて。いわゆる「決め顔で一言言ってくれればいい」っていう…悪い言葉で言うと形から入る演出の方が芸人さんには効果的だと思っています。なので、今回NON STYLE井上さんやアルコ&ピースにも、そのようなイメージで演出しました。
今までも、さっしーとは何度も仕事をしていますが、今までと一番違うところと言えば、今回の映画『薔薇色のブー子』では、可愛いんですよ!(笑)今まで可愛かったこと一度もないんですけど(笑)今回は可愛いんですよねぇ。
前に、誰かと「映画監督たるもの、女優を主役にする映画を撮るのであれば、仕事だけでなくて本当に女性として好きになるぐらい可愛く撮るとか、好きになるくらいまで頑張るのが関係としては最高」と話していたことがあったのですが、今回はそれに近い感覚で、モニターを見ていても「あぁ、可愛いなぁ」っていう時が、いつもではないですけど(笑)割と多かったですね。
劇中のシーンでは、白目を剥くようなすごい表情も出てくるんですが(笑)そういうシーンがあるからこそ、普通の時が可愛く見えるというのもありますしね。今回は、奇跡の瞬間がいっぱいありますよ。今までは、この子を可愛く撮ろうと思ったこと一回もなかったから(笑)ファンの方から見ると満足いかなかったかもしれないですけど、今回はファンの方が見ても「可愛いなぁ」と思ってもらえるんじゃないですかねぇ。
今、『新解釈・日本史』(MBS、TBS)というチャレンジングなドラマもやっています。
織田信長や坂本竜馬を新解釈で描いて、歴史の教科書では語られない偉人たちの姿を、一話完結のシチュエーションコメディに仕立て上げるものなのですが、夕飯の約束があって、薩長同盟に対して上の空な坂本竜馬とか(笑)とんでもない描き方をしている回もあるので、ちょっとドキドキしています(笑)
取り扱う偉人を好きな人には相当怒られそうな内容もあって、なかなかヘビーな旅になりそうな予感ですね(笑)
これから映像の制作などに携わる方は、今の業界で規制の厳しさと、お金がないという状況にぶつかると思うのですが「それを楽しんだ方がいい」と思います。規制があるから逆に楽しめることもあるし、お金がないから楽しめることは絶対的にあるので、そこを「お金がないから、こんなのしかできないよ」とか「規制が厳しいから楽しめるわけない」と諦めてしまったら、テレビはもう終わってしまうんですよね。
映画は、規制の面ではテレビより緩いですが、テレビに関しては、非常に窮地に立たされた状況でもあるので、どんどん狭くなってきますけれど「諦めずに楽しむ」ということが僕にとっては一番ですね。
僕はもともとバラエティ番組の作家なので、もとから狭い範囲でやっているから慣れっこなんですけど、「規制があるからこそ楽しめることはある」というのは伝えたいですね。