“モノづくり“という共通のフィールドで活躍する異業種クリエイターのインタビュー
加地 倫三
1969年3月13日生まれ。神奈川県出身。上智大学卒業後の1992年にテレビ朝日に入社し、スポーツ局に配属。96年に異動し、『ナイナイナ』『リングの魂』を担当。現在は『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』の演出・プロデューサーを担当。最近では『結婚できない司会者SP』などの単発番組も演出。
僕は、もともとバラエティ番組を作りたいと思っていました。ただ、入社面接でバラエティをやりたいと伝えたら「企画は何をやりたいの?」と聞かれそうで、企画については面接官の“おもしろい”と感じるものの好みで合否が左右されそうだなぁと。でも、スポーツだったら知識とマインドで押し切れる自信があったので、戦略として「スポーツ志望」と言って入社しました。そして、スポーツ局に配属。スポーツの仕事も楽しかったんですが、やはりバラエティ制作をやりたかったので、途中から異動願を出して、入社5年目で希望が叶って、バラエティに携わることになりました。
スポーツでは、実際の試合をテレビで流す時、カメラ割やアナウンサーへの指示出しなどに瞬時に対応する必要があります。前もって予測しておかないと間に合わないこともあって、次にこういうことが起こり得るかなとか、先を読んで、自分の頭の中で引き出しの前の方に出しておくような…そういう反射神経、瞬発力はスポーツ局時代に身につけて、今のバラエティ制作でも発揮されていますね。
『アメトーーク!』の場合は●●芸人というテーマを考えることは、誰でもできると思うんです。「お茶大好き芸人」でもいいですし「打ち合わせ大好き芸人」でもいいですし(笑)ただ、それを1時間見せることができるかどうかが大事なんですよね。
『アメトーーク!』は、2006年の秋から30分だった番組が1時間に拡大しました。そこで大事になったのが“起承転結”です。30分番組だと企画の切り口だけで成立するんですよ。発想の切れ味、勢いだけで30分を乗り切って「おもしろかった!」で成立しますが、1時間番組の場合は、途中でだれてしまいます。その、だれてくるところに前半よりさらにおもしろいものを持ってきて、最終的にどうやって終わるのか…その流れをしっかり固められないと、企画の実現には踏み切れません。そんな中で『ガンダム芸人』は転機とも言えるものでした。今でこそ、アニメやマンガの1つの作品だけで番組作りをしますが、2006年当時はそんなマニアックな狭い世界だけで1時間やるなんてあり得なかったので、「これが可能なら、かなりいろいろなことができる」と手応えを感じましたね。
そこから、どんどん企画の幅も広がって“何をやってもOK”というところまで辿りつけたのが、多分『アメトーーク!』が成功したと言えるところだと思います。この番組は何をやってもいいんだよ、という市民権を得るところまで辿りつくのが一番大変です。
まずは、出演者の芸人さんたちが最大限のパフォーマンスを発揮できるような楽しい空気を作ることが一番ですね。
例えば、最近収録した『今、バイクが熱い芸人』(5月8日放送)。バイクが好きで楽しい!というのが何にも勝っているから、笑いを取らなきゃいけないとか、失敗したらどうしよう…というのもなくて、楽しい空気が出せるんです。まずは、それをどう作り上げていくかが大事だと思います。だから、出演者がその日の企画に不安を感じていたら、まずはその不安を取り除いて、安心させることを考えます。
あとは楽しい空気…ノリですよね。収録前に、出演者陣が集まって話しているような、明るく楽しいノリのまま、そのままスッと本番を始めてみたりもします。
本番に入ってからの、お客さんの空気作りも大切だと思います。もちろん前説も重要ですし、他にも例えばスタジオ内の温度とかも。クーラーが効きすぎていて寒かったりすると、お客さんがだんだん笑わなくなることもあるので、その温度も気にしますね。スタジオの空気が重いと芸人さんたちは自分のしゃべりがウケてないと感じて、段々と思い切ったボケをしなくなったりします。
あと収録が長くなると、お客さんもだれてくるので、そういう時は予定していた収録内容でも飛ばすこともあります。雨上がり決死隊が登場した時の、「キャー!」の歓声で「今日は大丈夫だな」とか「今日はちょっと空気に気を付けないとダメだな」とか感覚で捕えられるほど、現場の空気は常に気にかけていますね。
発売中のBlu-ray『アメトーーク! BESTゴールド・シルバー』の収録内容を振り返っても、それぞれの企画が思い出深いですね。
例えば、『出川ナイト』(2008年2月7日&14日放送)。出川(哲朗)さんは、一緒に飲んでいてもすごくおもしろいので、カメラを回してみようと思って、出川哲朗さんに半年くらい密着したんです。それをどう作品として見せるかと考えた時に「情熱大陸」が好きだったので、そのパロディで「出川大陸」としてまとめました。
出川さんの天然のおもしろい部分を、これでドンと出せたかな、というのと、あと、初めて1本のネタで2週やり切れたんですよね。それが成功したので、『肥後という男Ⅰ&Ⅱ』(2008年7月3日&2009年7月2日放送)でも「肥後大陸」をやりましたし、密着形式でドキュメンタリーみたいなこともできるという“武器”をもう一つ増やしたという感覚でした。その成功から、さらに『出川と狩野』(2012年11月29日放送)という企画も生まれましたし、そういう意味では“チャレンジして成長して、次に繋げる”というのを、延々繰り返してきている番組だと思います。このBlu-rayには、その歴史がたくさん詰まっていますね
個人的には、起承転結の“転結”がしっかりしているという意味で『ホテルアイビス芸人』(2007年11月29日放送)の構成がすごく好きですね。あと、『女の子大好き芸人』(2011年3月3日放送)は僕がやりたくて。徳井(義実)くん(チュートリアル)に「『女の子大好き芸人』やりたいんだけど、どう思う?」って聞いたら「いいっすねぇ」って。敢えて言っちゃうっていう。「そりゃ、そうだろう!」っていうのでタイトルつけちゃうのって面白いなぁって思って(笑)
『アメトーーク!』は11年続いていて、変わってきたことと言えば、視聴者のハードルが上がってきた、というのはありますね。
ちょっと変わったことをやっても、変わっていると思われないでしょうし。そんな中で、最近の方が奇をてらいすぎたり、変わったことをやろうと思いすぎないようにしています。昔の方が「攻めよう!」みたいな気持ちが強かったですが、そういう意味では、野球のピッチャーでいう“配球を変えてきた”感じかもしれません。
最近でいうと『家族オカシイ芸人』(2014年4月3日放送)のように、シンプルに芸人さんの話術が楽しめる企画は変わらず継続しています。ドキュメンタリーテイストの企画などにも様々チャレンジしましたが、基本はトーク番組なので、そこを見失わないようにしないと番組がダメになってしまうと思います。
どんな企画も、芯があって、軸がしっかりあった上でのプラスαなので。そういう原点回帰みたいなことは大事かなぁと思いますね。
これから、番組の制作などに携わる方に対しては、やっぱり「自分がおもしろいと思うこと」を大切にして欲しいですね。
「自分たちがおもしろいと思っているからやる」とだけ言うと誤解されますし、それはもちろん、いろいろな成功体験や番組が置かれている状況を冷静に分析しながらのことですが、基本は「自分たちがおもしろいと思わないことはやらない」ということだと思います。
仮に受け売りだったり、他でヒットした企画だから…とやるにしても、それを自分が本当におもしろいと思っているのなら、まだいいと思うんですよ。うまく自分もアイディアを出せると思うので。でも、おもしろいかどうか分からないけれど、ヒットしているからやった方がいい…と始めたとしても、結局おもしろいことは思いつかないと思うんですよね。得意なことじゃないと、アイディアって出ないですし。サッカーを嫌いな人がサッカーで企画って、そもそも思いつかないですよね。だから「自分がおもしろいと思うのが基本」っていうのは、そういうことにも繋がるのだと思います。