年末の風物詩として20年以上にわたり続く「M-1グランプリ」。
だが、2025年大会の決勝は、これまで以上に“結果だけでは終わらない大会”になる可能性が高い。
漫才の完成度、実力伯仲の決勝進出者、そして何より――SNSを前提に消費される「いまのM-1の見られ方」が、完全に次のフェーズへ入っているからだ。
放送中に生まれる笑いは、リアルタイムでX(旧Twitter)へ流れ込み、ネタの一節、審査員の一言、芸人の表情は即座に切り抜かれ、“解釈”と“再評価”を繰り返しながら拡散していく。
2025年のM-1は、「4分間の漫才」+「その後に続く無数の議論」まで含めて、ひとつの大会だと言っていい。
なぜ今年のM-1は、ここまでバズりやすいのか
実力差が見えにくい「超フラットな決勝」
今年の決勝進出者を見ると、突出した一強というより、“誰が勝ってもおかしくない”ラインに全員が並んでいる印象が強い。これは視聴者にとって、「点数が出た瞬間に納得する」よりも「なぜこの評価になったのかを語りたくなる」構図を生みやすい。
常連と新鋭が、同じ土俵に立っている
連続決勝進出組と、初の大舞台に立つフレッシュな顔ぶれ。キャリアの差が、そのまま評価軸の違いとして可視化されるのも今年の特徴だ。
「完成度」か「爆発力」か「いまの空気を掴んでいるか」。この問いが、SNS上で何度も繰り返されることになる。
M-1グランプリ2026 決勝進出者紹介
真空ジェシカ

真空ジェシカ : JINRIKISHA OFFICIAL WEBSITE プロダクション人力舎オフィシャルウェブサイト
M-1ファイナルの常連で、2021年から5年連続5回目の決勝進出となる。緻密な構成と高い再現性、そして“外しすぎない狂気”が持ち味のコンビだ。
最大の強みは、審査員と観客のどちらにも届くバランス感覚。一見すると抽象的な設定でも、最終的には誰も置いていかない構造になっている。
「今年こそ」という声と、「もう十分強い」という評価が交錯する中、真空ジェシカがどんな“勝ちに行くネタ”を出すのかは、今大会最大の注目点だ。
ヤーレンズ

ヤーレンズ|バラエティ|所属者一覧|ケイダッシュステージ公式WEBサイト
3年連続決勝進出を経て、完全に“優勝候補”として見られる立場に立った。ヤーレンズの漫才は、派手な仕掛けよりも、会話のグルーヴと空気作りで笑わせるタイプ。だからこそ、会場の反応がそのまま点数や評価に直結しやすい。
今年は「安定枠」として見られる分、それを超える“何か”を出せるかが、最終決戦進出の鍵になる。
エバース
昨年に続き、2年連続の決勝進出。昨年のM-1以降、一気にテレビ出演が増えた印象がある。
構成力と演技力で評価を積み上げてきた実力派。派手に跳ねるというより、観終わったあとに評価が上がる漫才をするタイプだ。
SNSでは「じわじわ来る」「あとから理解できる」といった声が多く、まさに今のM-1的な消費構造と相性がいい。審査員コメント次第では、一気に評価が跳ねる可能性を秘めている。
ママタルト
ママタルト | Sun Music Group Official Web Site
エバースと同じく2年連続2回目の決勝進出となる。若手らしい勢いと、キャラクターの強さが際立つコンビ。フレーズ単位で記憶に残るボケが多く、切り抜き耐性は決勝組随。
「漫才としてどうか」という議論と「でもめちゃくちゃ笑った」という感情が、SNS上でせめぎ合う存在になりそうだ。
ヨネダ2000
独特のテンポと世界観で、観る側を一気に引き込むタイプ。
一度ハマると抜け出せないが、ハマらない人もいる――その“尖り”こそが最大の武器でもある。
決勝という場で、どこまで観客を自分たちの世界に連れていけるか。成功すれば、一気に大会の空気を変える存在になり得る。
豪快キャプテン
初決勝ながら、勢いとエネルギーはトップクラス。とにかく「今いちばん声が出る漫才」をするコンビだ。
点数が高くても低くても、必ず話題になるタイプという意味で、今大会の“バズ担当”になりそう。
めぞん
日常の違和感やズレを丁寧に拾い上げるタイプの漫才。派手さはないが、感情のリアリティが強く、共感で笑わせる。9年ぶりに前年2回戦敗退から決勝進出した、ダークホース。
SNSでは「分かる」「この感じ好き」という声が伸びやすく、若い視聴者層との相性がいい。
ドンデコルテ
独特なリズムと展開で、一度観たら忘れにくい。ネタの“絵面”も強く、テレビ向きの要素を多く持っている。昨年は準決勝で涙をのんだが、今年ついに決勝の舞台へとコマを進めた。
評価が割れた場合ほど、大会後に語られ続ける存在になりそうだ。
たくろう
大会史上初となる「7年ぶりの準決勝返り咲き」からの初決勝進出。初決勝のフレッシュさと、完成度の高さを両立するコンビ。ネタの構造が分かりやすく、初見の視聴者にも届きやすい。
「知らなかったけど一気に好きになった」そんな声が最も生まれやすいポジションにいる。
敗者復活戦 勝者
毎年、物語を生むこの枠。当日の敗者復活戦を勝ち抜いた1組が参加となる。ここから決勝に上がるコンビは、すでに“ドラマ”を背負っている。
会場の空気、視聴者の感情、そして勢い。それらを味方につけた瞬間、評価軸は一気に揺らぐ。
今年のM-1の傾向は?――「こう見ると、より面白い」
2026年のM-1グランプリは、これまで以上に“受け身で見るだけではもったいない大会”になりそうだ。 その背景には、漫才のスタイル変化と、視聴環境そのものの変化がある。
一発の爆笑より「後から効く漫才」が増えている
今年の決勝進出者を見渡すと、登場した瞬間に空気をひっくり返すタイプよりも、構成や会話の積み重ねでじわじわ笑わせる漫才が目立つ。
放送中は「派手じゃない?」と感じても、審査員コメントを聞いたあとや、切り抜きで見返したときに評価が変わる――そんなネタが多くなるのが、今年の特徴だ。
楽しみ方のヒント
点数だけで判断せず、「いま自分はどこで引っかかったか」を意識して見ると、
あとから“効いてくる”瞬間が増える。
「共感」「違和感」が評価軸になっている
日常の会話、微妙な温度差、説明しにくいズレ。今年は、そうした生活感のある笑いを武器にするコンビが多い。
大声で笑うというより、「分かる」「これ言語化してくれた」という感覚に近い反応が、
SNS上で静かに広がっていく。
楽しみ方のヒント
声を出して笑えなかったとしても、 “自分には刺さったかどうか”を基準にしていい。
ネタと同じくらい「審査員コメント」が重要
2025年大会は、ネタ → 点数 → 講評という流れが、ほぼワンセットで語られるはずだ。
審査員の一言によって、「なるほど、そういう見方か」「そこを評価するのか」と、漫才の印象が更新される瞬間が必ず訪れる。
楽しみ方のヒント
点数が出た瞬間で一喜一憂せず、コメントを聞いてから“もう一度評価する余白”を残しておく。
SNSは“答え合わせ”の場ではなく、“視点を借りる場”
放送中、タイムラインには無数の感想が流れる。だが今年のM-1は、「どれが正解か」を決めるためにSNSを見るより、他人の見方を借りる感覚で覗くのがちょうどいい。
自分が笑わなかったネタを誰かが熱量高く語っているのを読むだけで、漫才の輪郭が少し変わることもある。
楽しみ方のヒント
同意できなくてもOK。「そんな見方もあるのか」と思えた時点で、もう楽しめている。
今年は「誰が勝ってもおかしくない」前提で見る
突出した一強がいない分、優勝という結果よりも、「どの4分間が一番記憶に残ったか」が重要になる年だ。最終決戦に残らなかったネタが、大会後に何度も語られる――そんな現象が、今年も起きる可能性は高い。
楽しみ方のヒント
優勝予想を外しても大丈夫。「自分のベスト漫才」を決められたら、それで勝ち。
今年のM-1を象徴するプロモーションビデオにも注目
毎年恒例となっているM-1グランプリのプロモーションビデオは、大会の“いまの空気”を最も端的に伝えてくれる存在だ。
今年は12月16日(火)に最新PVが公開され、放送前から視聴者の間で話題を集めている。
M-1グランプリ2025×ORANGE RANGE『ミチシルベ~a road home~』
テーマとして描かれているのは、予想不可能な結果の先にある景色へたどり着けるのは、自分自身の「道しるべ」を信じる者だけというメッセージ。
今年の楽曲には、ORANGE RANGE「ミチシルベ~a road home~」が採用された。漫才師たちが背負ってきた年月や、M-1という舞台に立つ覚悟と自然に重なり合う。
決勝を観る前にこのPVを一本見ておくだけで、漫才の一言一言、ネタに込められた温度が、少し違って感じられるはずだ。
おわりに
2025年のM-1グランプリ決勝は、「誰が一番おもしろかったか」を決める時間であると同時に、視聴者一人ひとりが“自分なりの答え”を持ち帰る大会になりそうだ。決勝は12月21日(日)の18時30分からテレビ朝日で生放送。敗者復活戦も同日の15時から生中継する。
リアルタイムで見て、ただ笑う。SNSを開いて、他人の感想にうなずいたり首をかしげたりする。点数発表に納得できず、もう一度ネタを見返す――。そんな行為そのものが、今のM-1の楽しみ方になっている。
優勝者が決まったあとも、タイムラインには賛否が並び、切り抜き動画が回り、“あの4分間”についての会話はしばらく終わらないだろう。
テレビの前で見ていたはずのM-1が、いつの間にか「誰かと語るためのコンテンツ」になっている。それだけで、M-1は十分に面白い。












