ファッションデザイナーとして時代を築き、その後“アーティスト”として新たな表現領域を切り拓いてきたMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)。
その彼が、日本で初となる大規模個展「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」を開催することが決定した。

会場となるのは、1927年に竣工し、現在は登録有形文化財にも指定されている九段ハウス
約100年前の歴史を刻む邸宅と、現代美術作品が交差するこの展覧会は、Margielaの創作哲学と深く共鳴する、極めて特別な試みとなっている。

今回の会場、九段ハウスとは?

九段ハウスは、1927年に竣工したスペイン様式の洋館を改修した、会員制のビジネス・イノベーション拠点だ。旧山口萬吉邸として知られるこの建物は、現在登録有形文化財に指定されており、約100年にわたる時間の蓄積を今に伝えている。

重厚な外観と、生活の気配が色濃く残る室内空間。格式と私的な空気感を併せ持つ九段ハウスは、美術館やギャラリーとは異なる、独特の緊張感と親密さを備えている。

生活の痕跡、時間の重なり、そして建築そのものが持つ記憶。それらを内包する九段ハウスという場は、再利用や変容、不在といったテーマを扱うMargielaの作品世界と深く呼応し、本展を成立させる重要な要素となっている。

歴史ある邸宅全体を使った、一時的で儚いインスタレーション

本展の最大の特徴は、展示空間が「美術館」ではなく、生活の痕跡が色濃く残る邸宅そのものである点だ。九段ハウスの各部屋には、コラージュ、絵画、ドローイング、彫刻、アッサンブラージュ、映像作品など、多様な技法による作品が展開される。

作品は恒久的な展示物ではなく、あくまでこの場所、この時間にのみ存在する一時的なインスタレーション。歴史的建築の静けさと、現代美術の鋭さが交差することで、作品はより繊細に、より親密に立ち上がる。

Margielaが長年探究してきた「再利用」「分解」「変容」というテーマは、本展においても一貫して貫かれている。
日常の中で見過ごされがちな物や状況に新たな視点を与え、平凡なものを非凡な存在へと転化させる——その姿勢は、アーティストとしての現在地を明確に示している。

本展では、空間そのものが“身体”の延長として機能し、来場者は部屋から部屋へと移動しながら、作品と極めて近い距離感で向き合うことになる。そこには、答えを提示する展示ではなく、見る者に問いを投げかけるMargielaらしい姿勢が色濃く反映されている。

「私的な空気感」を重視した、アーティスト自身によるキュレーション

展示構成およびキュレーションは、すべてMartin Margiela自身が手がけている。
生活の記憶が残る邸宅に作品を設えるという選択は、彼にとって重要な「私的な空気感」を呼び戻す行為でもある。

また、彼が大切にしているのは、手仕事の痕跡や不完全さ、時間が刻まれたパティナの美しさ。
最新技術が当たり前となった現代においても、あえて制作プロセスを可視化することで、未完成や揺らぎを肯定する姿勢が、作品の随所に感じられる。

「私は答えを示すよりも、問いを投げかけたいのです。」この言葉は、本展全体を貫くメッセージとも言えるだろう。

東京という都市との、四半世紀ぶりの再会

Martin Margielaと東京の関係は、今回が初めてではない。
2000年には、東京・恵比寿の歴史ある邸宅に、世界初となる「Maison Martin Margiela」の店舗をオープン。浴室やキッチンを含む邸宅全体を使ったその空間は、当時のファッションシーンに強烈なインパクトを残した。

そして2026年、約四半世紀の時を経て、再び東京へ。同じく歴史的邸宅である九段ハウスを舞台に、今度はアーティストとして作品を発表する。
「再び東京に戻り、1927年に建てられたこの家で作品を見せられることを嬉しく思います。」この言葉からも、本展が彼にとって特別な意味を持つことが伝わってくる。

おわりに

「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」は、単なる回顧展でも、新作発表の場でもない。それは、時間・空間・記憶・匿名性といった、Margielaが一貫して向き合ってきたテーマを、ひとつの邸宅に凝縮した体験型の展覧会だ。

来場者は、展示を“鑑賞する”というよりも、邸宅を巡りながら、作品と静かに対話することになるだろう。マルタン・マルジェラという存在を、改めて深く理解するための、またとない機会となりそうだ。

開催概要

MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE

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