はじめに
2025年5月23日(金)、日本ファッション界のパイオニア、コシノアヤコの生涯を描いた映画『ゴッドマザー ~コシノアヤコの生涯~』が全国の劇場で公開されます。彼女は戦後日本の洋装文化を切り拓き、3人の娘たちを世界的デザイナーに育て上げた“最強の母”。その人生は、ファッションだけでなく、子育て、働く女性の生き方、そして時代の流れと闘う姿を私たちに示しています。
本記事では、コシノ三姉妹の経歴と人物像、そして映画の見どころと魅力をたっぷりとご紹介します。
コシノ三姉妹って?
まずは、映画の中心人物である母・コシノアヤコ、そして彼女の意思を継ぎ、世界に羽ばたいた三姉妹について知っておきましょう。
コシノアヤコ(母)
1913年、大阪・岸和田で生まれたコシノアヤコは、戦後の混乱期に洋裁店を営みながら、既成概念にとらわれない洋服づくりで注目を浴びました。母でありながら職人であり、経営者でもあったアヤコは、厳しさと情熱をもって娘たちを育て、自らも74歳でブランド「コシノアヤコ」を設立するという伝説的な生き方を貫きました。
NHK連続テレビ小説『カーネーション』のモデルとなったことでも知られています。
コシノヒロコ(長女)
1937年生まれ。文化服装学院を卒業後、東京やパリ、ローマ、上海など世界各地で作品を発表。伝統美とモダンを融合させたデザインに定評があります。近年はアート活動にも力を入れており、兵庫県立美術館での個展や、KHギャラリーの運営など、創作の幅を広げています。
HIROKO KOSHINO / ヒロココシノ公式ブランドサイト
コシノジュンコ(次女)
1939年生まれ。1978年から22年間連続でパリ・コレクションに参加。ミュージカルやオペラの舞台衣装デザインも多数手がけ、文化の架け橋として国際的に活躍しています。近年では、ベトナムやキューバなど新興地域でのファッションショーを実施。2021年にはフランス政府よりレジオン・ドヌール勲章を、2022年には日本政府から旭日中綬章を受章しています。
また、コシノジュンコさんは大阪・関西万博に出展する企業のスタッフが会場で身につけるユニフォームをデザイン。未来をイメージして銀と白で統一し、性別や年齢を問わず着用できるデザインにしたということで、光に反射すると輝き、存在感のある装いとなっています。
コシノジュンコさんデザイン 万博に出展企業のユニフォーム|NHK 関西のニュース
JUNKO KOSHINO
コシノミチコ(三女)
1943年生まれ。大学時代はテニスプレイヤーとして全国大会で優勝するほどの実力を持っていましたが、ファッションの道へ。1973年に渡英し、ロンドンの音楽・ストリート文化に触発され「MICHIKO LONDON」を創設。日本人として初めて英国ファッション界で認められ、ブランドは一世を風靡。近年はユニセックスな視点や社会的メッセージを込めた作品で再評価されています。
MICHIKO LONDON KOSHINO
映画『ゴッドマザー ~コシノアヤコの生涯~』の見どころ
ストーリー概要
映画は、少女時代のアヤコが呉服屋の娘として育つところから始まります。戦争と家族の死、そして女性一人で商売を立ち上げる困難な時代背景。やがて3人の娘たちを育て上げ、それぞれがファッション界の第一線に立っていく様子を描きます。
アヤコの厳しさ、愛情、苦悩、そして「母として、女性として、自分として」生き抜いた姿は、現代を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれます。
キャスト陣
元宝塚トップスターであり、今なお第一線で輝き続ける女優・大地真央が、『ゴッドマザー ~コシノアヤコの生涯~』で15歳から92歳までのアヤコを演じ切ります。
本作では、激動の時代を生き抜いたアヤコの“母として、デザイナーとして”の軌跡を、舞台女優ならではの所作と存在感で、アヤコの人生の起伏を見事に体現。本作にて映画初主演をつとめます。
- ヒロコ役:黒谷友香
数々の映画やドラマで活躍してきた実力派女優・黒谷友香が魅せるのは、時代の流れに翻弄されながらも信念を貫く女性像。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』や『武士の家計簿』などで知られる黒谷友香の、芯の強さと繊細さを併せ持つ演技が、本作でも光ります。ファッション界のレジェンドを描く本作での彼女の存在感は、まさに必見です。 - ジュンコ役:鈴木砂羽
圧倒的な演技力と存在感で多くの視聴者を魅了してきた鈴木砂羽。『白い巨塔』や『相棒』シリーズなどでも知られる彼女が、本作ではアヤコの人生に大きな影響を与える人物を熱演します。鈴木砂羽ならではのリアリティと人間味が、ドラマティックなストーリーに深みを加えています。
- ミチコ役:水上京香
次世代を担う若手女優として注目を集める水上京香。『おっさんずラブ』や舞台『ロミオとジュリエット』などで着実にキャリアを重ねる彼女が、コシノアヤコの若き日を演じることで話題に。透明感と確かな演技力を持つ水上京香が、ファッション界のレジェンドの“原点”に命を吹き込みます。
それぞれが三姉妹の個性と、母への葛藤・尊敬を演技に落とし込み、物語に深みを与えています。 - 甚作(アヤコの父)役:木村祐一
頑固一徹な父としてアヤコの原点を描きます。
演出と映像美
本作の監督は、『カメラを止めるな!』で撮影を担当して日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞し、海外での自主製作作品も多く手掛けている曽根剛。昭和から平成へ、そして令和へと続く時代の空気感を丁寧に映像で再現。衣装監修には実際にコシノ三姉妹が関わっており、リアルなディテールにも注目です。
また、ファッションショーの再現シーンは圧巻。三姉妹それぞれのブランドが織りなすスタイルの違いを楽しめる贅沢な時間です。
音楽
劇中音楽はグラミー賞受賞の経歴を持つ宅見将典が手掛けており、主題歌は「SPECIAL/Skoop On Somebody feat.Jeffrey “J9” Qwest」。本作のために書き下ろされた「SPECIAL」は、TAKEの師であり旧友でもあるシンガーソングライターのJeffrey “J9” Qwest氏をフィーチャリングした楽曲となっています。
公開情報と関連書籍
- 公開日:2025年5月23日(金)
- 上映劇場:全国の主要劇場にて順次公開
- 上映時間:137分
- 配給:東宝
- 原作協力:コシノ三姉妹、岸和田市
また、三姉妹が共著したエッセイ『向こう岸、見ているだけでは渡れない』(文藝春秋)もおすすめ。映画と併せて読むことで、より深く物語の背景を理解できるでしょう。
なぜ今、Z世代に響くのか?――「個性を貫く勇気」と「ルールを超える挑戦」
ファッションの物語として、母と娘の物語として、また時代を生き抜いた女性の物語として描かれる『ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜』。この映画がZ世代にとっても見逃せない理由は、何より「個性を貫くことの大切さ」と「常識を超える挑戦」が描かれているからです。
ルールに縛られない「コシノ家」のDNA
今の時代、SNSで「他人に合わせる」プレッシャーを感じたり、「空気を読む」ことが求められることも多いですよね。そんな中で、コシノアヤコと三姉妹は“自分だけの表現”に徹底的にこだわる生き方を選んできました。
- 母アヤコは、戦後の焼け跡から、周囲の反対を押し切って洋裁店を開業。
- ヒロコは、静謐さと強さを併せ持つコレクションで、日本の美意識を世界に伝えた。
- ジュンコは、洋服を“着るアート”として捉え、パリコレで「ファッションは社会へのメッセージになり得る」と証明。
- ミチコは、周囲が「無謀」と言う中、単身でロンドンに渡り、ユースカルチャーに根ざしたファッションでブランドを世界に広げた。
誰かと同じでなくていい。型にはまらなくていい。「あなたの“好き”が、世界を変えるかもしれない」。そんなメッセージが、作品全体からにじみ出ています。
「#共感しない勇気」をくれる映画
コシノ三姉妹が面白いのは、互いに競い合うわけでも、仲良しアピールをするわけでもないという点です。三者三様、それぞれのフィールドで自由に、対等に、違いを誇っている。その姿は、Z世代に広がる「多様性」や「自己肯定感」と深くつながっています。
「自分らしく生きていい」とは言われても、実際にどう行動すればいいか悩む人にとって、この映画は“共感しすぎない強さ”と“孤独の肯定”を教えてくれるかもしれません。
おわりに
『ゴッドマザー〜コシノアヤコの生涯〜』は、単なる伝記映画ではありません。激動の時代にあって、母として、クリエイターとして、女性として、ブレずに信じた道を歩んだアヤコの姿は、現代に生きるすべての人へのエールとも言える作品です。
そして、その背中を見て育ち、世界の舞台で羽ばたいた三姉妹の存在は、「生きるとは、創り続けることだ」と私たちに教えてくれます。劇場で、ぜひその人生のあり方を鑑賞してください。